講義No.13089 日本文学

『枕草子』はひとつではない? 写本を通して読む平安文学

『枕草子』はひとつではない? 写本を通して読む平安文学

『枕草子』はひとつではない

古典の教科書にも載っている『枕草子』ですが、現存するものが清少納言が書いたものとまったく同じかどうかはわかりません。『枕草子』は本人の自筆本が残っておらず、約1000年の間に何度も写本が作られました。写本を作った人によっては、本文をそのまま書き写すだけではなく、わかりにくいところをわかりやすく変える、内容を書き加えるなど、さまざまな編集をしていた可能性があります。

掲載順も違う?

『枕草子』には大きく分けて4種類の写本が現存しており、比較してみると共通点や特徴がわかります。共通点のひとつが、どの写本も「春はあけぼの」の段から始まっていることです。このことから、どの時代の人々も、「春はあけぼの」は『枕草子』の看板である、というイメージを抱いていたと推測できます。しかしそのあとの段は、写本によって異なっていることがわかります。例えば「~は」と名付けられた段をまとめて掲載し、そのあとに「~もの」の段をまとめて掲載している写本もみられます。改行の位置や行間のとりかたなども写本ごとに違いがあり、本文を書き写した人の意図が反映されていると考えられます。

写本から見える、人々と文学の歴史

現存している『枕草子』の写本で最古のものは、平安時代末期から鎌倉時代初期頃までには書かれていたといわれている「前田本」です。「前田本」には、ひとつの段に対して、それぞれ別の写本に載っていたと思われる本文を並べて書いている箇所があります。編集した人は、『枕草子』に複数の種類の写本があることに気づいており、中身の共通点や違いを分析し、並べるという作業を行ったのかもしれません。人々の間で受け継がれてきた『枕草子』を取りこぼさないよう収集する、という研究者的な姿勢がみえる写本です。
このように、写本には文学作品が人々の間で受け継がれてきた歴史が反映されています。しかし写本をいつ誰が書いたのか、もとの本文はどうなっていたのかなど、いまだに不明点が多く、研究が続いています。

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立正大学 文学部 文学科 日本語日本文学専攻コース 教授 山中 悠希 先生

立正大学 文学部 文学科 日本語日本文学専攻コース 教授 山中 悠希 先生

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メッセージ

大学以降の学問には正解があまりありません。自由だからこそ、あなた独自の視点を生かせると思います。ただ、日本文学なら日本のことだけ学べばいい、というわけではありません。世の中の物事は多くの分野が複雑につながってできています。常にアンテナを立てて視野を広げ、さまざまな分野に触れてほしいです。自分なりのコラボレーションが実現したとき、学問のおもしろさがみえてくると思います。日本の古典文学には埋もれさせるには惜しい本がたくさん残っているので、ぜひ関心を持ってもらいたいです。

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