講義No.11234 日本文学

知れば知るほどに奥深く、魅了される「泉鏡花」の世界

知れば知るほどに奥深く、魅了される「泉鏡花」の世界

メジャーではない「天才」作家

明治から昭和初期にかけて活躍した、泉鏡花(いずみ・きょうか)という小説家がいます。幻想的な作風、絢爛たる文体が特徴で、代表作「高野聖」をはじめ、300篇あまりの小説や戯曲を生み出しました。今日もなお熱烈な愛読者を持ち続けてはいますが、国語の教科書で出会う機会はほとんどなく、知名度も決して高いとは言えないでしょう。
とはいえ、夏目漱石や三島由紀夫など、数多くの作家が「鏡花は天才である」と称賛しており、彼らに与えた影響となると、とうてい計り知れません。実に不思議な存在感を放っている作家です。

時代と向き合いつつ、みずからの文学表現を貫く

日本の近代文学は、写実主義や自然主義の思潮が主流を占めていったとおり、事実をありのままに描写するリアリズムを基調として展開しました。泉鏡花はというと、その潮流にくみせず、古典文芸の引用を織り交ぜながら比類のない文体を駆使して、幻想怪奇の物語世界を構築していたのです。浮世離れした作家、そう思われがちであるのも無理はありません。
しかし、鏡花の作品を読み解いてゆくと、その表現は独自のリアリズム感覚に支えられていたり、現実にあった出来事が物語に取り込まれていたりするなど、彼もまた時代に背を向けていなかったことがうかがえます。この事実からは、移り変わる時流を見据えつつも揺らぐことなく、みずからの文学表現を貫いた作家の姿が浮かび上がってくるでしょう。

研究されていない部分がまだまだある

汲めども尽きせぬ魅力を湛えているのが、泉鏡花の文学です。しかし、多くの人にとってはただただ読みづらく、冒頭をちらっと眺めただけで投げ出したくなってしまうかもしれません。では、どうして鏡花はそのような書き方を選んでいたのでしょうか。
こうした素朴な疑問であっても、鏡花を研究するうえでは重要な切り口のひとつとなります。そして、読み解くことが容易でない鏡花の言葉、表現とじっくり向き合ってみることは、近代文学の歴史をさらに深く理解することにもつながるでしょう。

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愛知学院大学 文学部 日本文化学科 講師 吉田 遼人 先生

愛知学院大学 文学部 日本文化学科 講師 吉田 遼人 先生

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日本近代文学

メッセージ

何だかよくわからないものを前にしたとき、あなたはどのようにふるまうでしょうか。すんなり理解できそうにないとなると、ただちに遠ざけてしまうでしょうか。確かに、受けとめやすいものや馴染みの深いものに囲まれているほうが、居心地がよいかもしれません。
けれども、たとえすぐには捉えがたい対象だとしても、その「何か」がどういうものか、様子を探ってみる時間は大切にしてほしいと思います。そのような時間を経験するなかで、あなた自身のものの見方や考え方、そして世界が、新たに拡がろうとしているはずだからです。

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