『源氏物語』はどのように生まれたか
『源氏物語』のはじまり
現代にまで伝わる『源氏物語』は、夫に先立たれてしまった紫式部が世をはかなみ、自宅に引きこもるような生活を送る中で書いていた物語が、その原形になったと考えられています。この作品が人々の口伝てに評判を呼び、藤原道長という当時の最高権力者に見いだされた紫式部は、道長の娘で一条天皇の后でもある藤原彰子に侍女として仕えることになりました。紫式部の身に起きたこのような環境の変化は、作品にも影響を与えていきます。
誰のため、何のための物語
例えば、道長という後ろ盾を得て、紙や墨が自由に使えるようになったことで、長編の執筆が可能となりました。また、侍女となって宮中に入り、宮中での暮らしや皇族・貴族たちの生き方を知ったことで、『源氏物語』は政治劇へと生まれ変わります。さらには、そこへ道長の政治的思惑も関わってきます。一条天皇は、死別したもう一人の皇后の藤原定子を深く愛し続けており、彰子との間には子がいませんでした。彰子の懐妊を切望していた道長は、一条天皇と彰子の仲をうまく取りもつ装置としての役割を『源氏物語』に求めていたのです。権力者からの要望と、紫式部自身が作者として抱く願い、そして一条天皇を純粋に慕う彰子の思いなど、さまざまな葛藤に囲まれる中で『源氏物語』は書き続けられました。
文学作品を社会の中に置く
文学研究は、必ずしもその作品の中だけで完結するものではありません。作品が成立した時代の社会状況や歴史的背景の中にその作品を置いてみると、人々や物事の間のつながりが、より立体的に見えるようになります。『源氏物語』でいえば、同時代に書かれた他作品や、道長が権力を握っていた当時の政治的状況、紫式部が暮らしていた宮中の居住環境などに関する知見も重要です。こうした多角的観点で文学研究を進めるためには、歴史学をはじめとする周辺諸分野の成果や発展が欠かせません。学際的な研究ネットワークの一部に、文学研究は位置づけられているのです。
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