ら抜き言葉は絶対に不正解? コーパスが明らかにする言葉の実態
言葉の使われ方
「来れる」「食べれる」「見れる」といった「ら抜き言葉」は日本語の乱れの一つで、若者言葉であると指摘されることがあります。学校の国語のテストでも「来られる」を「来れる」と書いてしまうと不正解とされますが、社会では多くの人が「来れる」を使用しています。また「分析」という言葉は、社会や理科の授業によく登場しますが、国語では漢字指導以外に登場しません。国語教育においては規範、つまり正解か否かという視点も重要ですが、一つ一つの言葉が社会でどう使われているのかをつかみ、その実態に即した教育・指導のあり方を考えることも、非常に重要なことです。
コーパスというシステム
言葉の実態をつかむ上で非常に有効なツールが、国立国語研究所の「コーパス」というシステムです。コーパスには膨大な本や文献が文字情報として登録されています。例えば検索欄に「分析」と入力すると、どのような資料・場面で、どのような言葉の前もしくは後に使われているのか、といったことが瞬時に示されます。
コーパスは古典にも対応しています。例えば現代語の「おかしい」の語源とされる「をかし」を検索すると、平安時代に書かれた『枕草子』や『源氏物語』では数百回使われているのに対して、江戸時代の『おくのほそ道』では1度しか登場しません。このように、時代の流れの中で言葉がどう使われてきたのかを、具体的に読み取ることができます。
実態をつかむこと
いつの時代も若者は大人から「言葉を知らない」といわれることがあります。しかし大人が「知っていて当然」と考える言葉が、コーパスを用いることで「今では使われていない」ことが明らかになれば、若者が知らないのも当然であると客観的に判断できます。膨大なデータベースから構成されて、言葉の使われ方を可視化するコーパスはまさに「言葉の実態」といえます。言葉に限らず、物事を考えるためにはまず「実態」「事実」を知ることからはじめるという姿勢は、社会生活全般においても求められる要素なのです。
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群馬大学 共同教育学部 国語教育講座 教授 河内 昭浩 先生
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