抗原検査キットの仕組みから考える、化学の力と日々の暮らし

抗原検査キットの仕組みから考える、化学の力と日々の暮らし

生活の中で利活用されている「ナノ粒子」

新型コロナウイルス感染症の流行により、「抗原検査キット」をよく見かけるようになりました。体内にウイルスが一定量以上含まれるとき、赤色や青色のラインが現れるこのキットには、化学的につくり出した「ナノ粒子」が活用されています。1 nm(ナノメートル)は、1 mの10億分の1の大きさです。例えば、DNAの幅は2 nm、インフルエンザウイルスの大きさは100 nmくらいです。微粒子は、インク、化粧品、燃料電池車の触媒など、生活の中にある身近な物品に数多く活用されています。抗原検査キットも、そのような微粒子の活用方法のひとつなのです。

抗原検査キットの仕組み

抗原検査キットの「抗原」とは、ウイルスが持つ特有のタンパク質のことです。ウイルス(抗原)は目で見えません。そこで、金ナノ粒子(赤色)などの色のついた粒子をマーカーとして活用しています。ここで、ナノ粒子を化学的につくり出す方法として「ビルドアップ法」があります。ビルドアップ法は、原子や分子、イオンから、還元や重合といった化学反応を用いてナノ粒子を合成する方法です。抗原検査キットでは、そのようにしてつくり出したナノ粒子に、抗原をキャッチする機能を持たせます。抗原をキャッチしたナノ粒子はキット上を流れ、キットの端にライン上に固定化された抗体(抗原と結合する)につかまります。検体の中に一定量以上のウイルス(抗原)が含まれる場合、抗体を固定化したところに抗原をキャッチしたナノ粒子が多数集まるため、ナノ粒子の色由来のラインが浮かび上がり、陽性であることが明らかになるのです。

暮らしに貢献する化学の力

ナノ粒子を合成し、機能を持たせて活用する研究はさまざまな分野で行われています。特にウイルス検出の分野では最近、「糖鎖」というウイルス感染の基点となる物質を微粒子にくっつけることで、新しい検査方法を創出する研究が進んでいます。微粒子を扱うことができれば、医療の発展も含め、日々の暮らしに役立つものを生み出せるのです。

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茨城大学 工学部 物質科学工学科 准教授 山内 紀子 先生

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ナノ材料化学、ナノ材料工学、化学工学

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いろいろな科目に興味を持ち、学びを深めてください。工学系の研究であっても、理系科目を極めるだけでは足りません。研究内容を論文にまとめるためには、言いたいことを言語化する国語力が必要ですし、研究発表を行ったり、共同研究を進めたりするためには、コミュニケーション力も必要です。また、研究が社会に与える影響を考える上では、政治経済などの社会科学の知識も欠かせません。わからないこと、知らないことに好奇心を持ち、学び続ける姿勢はきっと、大学に進学した後も生きてくるはずです。

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