金融システムの「抜け穴」を見つけるデータサイエンス

金融システムの「抜け穴」を見つけるデータサイエンス

日本特有の「ゴトオビアノマリー」

日本には江戸時代頃から五十払い(ごとばらい)という特有の商習慣があり、現在も多くの企業が採用しています。毎月5と10がつく日、いわゆる五十日(ゴトオビ)に、輸入品の支払いをドルで行うため、日本円を米ドルに両替する需要が高まります。一方、両替を担当する銀行は事前に米ドルを安く仕入れたいため、為替レートを固定する午前9時55分以前に世界中の銀行と両替を済ませます。すると世界中で日本円を売って米ドルを買う圧力が加わるため、ゴトオビには午前9時55分にかけてドル/円レートが上昇しやすい珍現象「ゴトオビアノマリー」が発見されました。アノマリーとは、明確な根拠はないが、普段は起こらない特殊な経験則を指します。

アノマリーをデータで検証してみた

ゴトオビアノマリーを、実際の為替データで検証した研究があります。まず15年分のドル/円の為替レートを1日ごとに区切り、これらを重ねることで各時間帯の為替レートの変化をグラフにします。すると確かに、午前9時55分にかけてドル/円レートが平均的に上昇する様子を確認できます。さらに統計的な検定でも有意性を確認できるため、単に偶然な現象ではないと言えます。つまりこのアノマリーを知る人だけが安定的に高確率でプラス利益を得られる状態になっており、反対に高いレートで両替することになる日本企業は、無自覚のまま自社の富を流出させています。これは水道管で言えば水漏れしている状態であり、金融市場の公平性を損なう「抜け穴」になっている可能性があります。

アノマリーは人間心理のいたずら

ゴトオビアノマリーは、日本企業が五十払いの商習慣を止めれば消滅します。人間心理には過去や他者との同調を好む癖(バイアス)があるため、常に気を付けないと無自覚のまま非合理的な行動をしがちです。ゴトオビアノマリーはそんな人間心理の弱さが一因であり、無自覚なバイアスに気付くには、データという客観的事実から現象を正しく理解する「データサイエンス」が役に立ちます。

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茨城大学 地域未来共創学環  教授 鈴木 智也 先生

茨城大学 地域未来共創学環 教授 鈴木 智也 先生

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メッセージ

身の回りのことに対して「なぜ?なぜ?」とたくさん考えてみましょう。「なぜ服装には流行があるのか」や「なぜ友達なのに喧嘩をするのか」など、必ず隠れた理由があるはずです。そういうものだからと受け流さずに考えるクセをつけることは、データサイエンスの学びにも役立ちます。データサイエンスは社会のさまざまな課題解決につながる実践的な学問のひとつですが、データを生かすには仮説を立てる力やセンス、そして好奇心が重要です。「なぜ?なぜ?」の好奇心がセンスを磨き、データサイエンスの学びを楽しくするはずです。

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