モバイル時代を支える「熱」の技術

モバイル時代を支える「熱」の技術

Pentium4の悲劇

パソコンはどうも苦手という人でも、「インテル」という名前を一度は聞いたことがあるでしょう。CPUというパソコンの心臓にあたる部品において、世界市場の約8割を占有する多国籍企業です。その分野では巨人と呼ぶにふさわしいインテルではありますが、実は2005年頃に大変な挫折を味わっています。
当時の主力製品、Pentium4は動作速度が最大3.8ギガヘルツ。かなり乱暴な言い方をすれば、1秒間に38億回の信号動作をさせることには成功していました。ですが、依然ライバルのAMDとの競争は続きます。そこで、さらに高速化した「次世代Pentium4」の開発を始めたのです。ところが、当初の想定をはるかに超える問題が勃発。CPUの動作時に自らが発する熱です。CPUが早く動けば動くほど電流は流れにくくなり、余ったエネルギーは熱として発散されます。動作速度が4ギガヘルツを超えると、熱射病にかかった人のように、判断がまったく出来なくなってしまうのです。結局、インテルは発熱問題を解決することができませんでした。そのために「新型Pentium4」の開発計画は、永遠にお蔵入りとなってしまったのです。

熱を操るテクノロジー

そして時は移ろい現在。携帯電話や音楽プレーヤーの中にも、最新型であれば「Pentium4」と同レベルの性能を持つ“コンピュータ”が組み込まれています。でも、iPodや携帯電話を野ざらしにしても、メチャクチャな動き方をするといった現象は起こりません。熱処理技術と設計における解析レベルが格段に進歩したからです。
熱容量を表わす「比熱」という尺度と、熱い場所と冷たい場所の「温度差」の二つの要素をまず数学的に表現する。そして、その方程式を解くことによって、携帯電話に代表される「モバイル機器」を設計する際には、どういった素材使い、また構造にすればよいかを考えているのです。

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先生情報 / 大学情報

茨城大学 工学部 物質科学工学科 教授 太田 弘道 先生

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メッセージ

工学という学問は、必ずしもすぐ役立つような短期的な技術開発ばかりをしているわけではありません。それはどちらかといえば企業の役割であり、大学の研究はむしろそれを支えるより良い理論や測定方法などの基礎分野が中心です。さらに、鉄やガラスの熱に対する挙動から物質の根源的な構造に迫るなど、理学部も顔負けの超基礎研究も行っています。企業と密接に連携した新技術開発から純粋な科学的研究まで、工学は非常に幅の広い学問だと言えるでしょう。

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茨城大学は、人文社会、教育、理、工、農の5学部からなる中堅的地方総合大学です。校地は水戸・日立・阿見の3地区に分かれており、各キャンパスとも学生を中心とした環境づくりを進め、教育研究施設の充実を図っています。幅広い教養教育と高度の専門教育により専門家として自立できる人材を育成するため、学部・大学院にて多様な学習の場を用意し、各分野で世界を先導する研究活動を推進しています。