経済から見れば、日本の安全保障はアメリカに深く依存していない
安全保障に関する費用は「無駄遣い」なのか
日本の防衛費は、「GDP比の1パーセント」という言葉とともに、たびたび議論されます。この1パーセントは防衛のために必要な「支出」面なのですが、「経済成長」の面から見ると、推定期間によっては、防衛費は経済成長にプラスの因果関係があります。プラスに働く方向性を見ると、国内の防衛産業への利益につながっています。日本は多くの防衛装備品を輸入しているイメージがありますが、実は約76パーセントは国内調達なのです(2020年度の国内調達額の割合)。政治的には、日本の安全保障はアメリカに深く依存していると見られますが、経済的には決してそんなことはないといえます。
防衛産業が生活にもたらすもの
日本の防衛産業は多くの企業が携わっていますが、防衛装備品はほかの工業製品に比べて生産コストがかかることもあって企業の撤退が相次ぐなど、厳しい状況が続いています。防衛生産額は、工業生産額全体で見るとわずかであるため、その分をほかの産業に注力するべきという議論もありますが、安全保障上、輸入に頼り切るのは危険な分野です。加えてコンピュータやGPS、ナビゲーションシステムなどは、もともと防衛産業から派生して作られたものですから、防衛産業の衰退はそうした製品開発の分野で遅れを取る可能性もあります。従って防衛産業をどうサポートするかというのは、経済的な面からも大切なのです。
さまざまな分野で使われる経済分析
こうした分析は、計量経済学の手法を用いて行うことができます。安全保障に関係する変数を加えた経済理論モデルを考えて、そのモデルの中に、GDPなどの経済データ、そして、防衛費などの安全保障のデータを使用して実証分析を行います。経済理論モデルを作って実証分析することは、経済分析における共通の手法です。その分野に特徴的な変数や、関連データをどのようにモデルに入れ込むかが肝要なのです。手法がわかれば、安全保障以外の政策や特定の技術がもたらす経済的影響なども見ることができます。
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拓殖大学 政経学部 経済学科 准教授 安藤 詩緒 先生
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