光だけで生体組織の状態がわかる、「分子の指紋」とは?
ラマンスペクトル
物質に光を当てると、反射、屈折、回折、散乱、吸収などが起こります。このうち、光のエネルギーの一部が分子の振動に使われ、元と異なる波長の光が散乱される現象をラマン散乱と呼びます。ラマン散乱は微弱なため、肉眼で観察することは難しいです。ラマン散乱のスペクトル(波長ごとの光の強さの分布)は、レーザー光を使うと顕著に観察することができ、そのスパイキーな形状は化学結合の種類などで決まります。ラマンスペクトルはいわば「分子の指紋」であり、これを読み解けば分子の構造を知ることができます。例えば、アルツハイマー病の原因になるタンパク質は、正常なタンパク質に比べて二次構造が剛直であり、この構造の違いもスペクトルの違いとして現れます。
ラベルなしで細胞組織を観察
特定の生体分子の観察には、観察したい分子に蛍光タンパク質などの標識(ラベル)をくっつけて画像化する方法が有効です。しかし睡眠の研究のように、どのような分子が機能しているのかがわかっていないケースでは、この方法を使うことは困難です。そこで活躍するのが、ラベルがなくても分子の構造がわかるラマンスペクトルを用いたイメージング法です。
生きたまますぐに病理診断
ラマンイメージングのもう一つの特徴は、生きたまま生体を観察できる点です。例えば一般的な電子顕微鏡は、詳細な観察が可能ですが試料を真空中に置く必要があるため、生きたままでの観察は難しいです。手術中に行われる病変部の組織の迅速診断も、固定・脱水・脱脂・染色などが必要なので、そのまま測定できるラマンイメージングを利用すれば格段のスピードアップが図れるでしょう。
ラベリングせず生きたままという特徴を生かして、病理診断や疾患診断などへの応用も目標とされています。生きた細胞に光を当てるだけで病気がわかる、そんな健康診断が近い将来実現するかもしれません。
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