指紋も、二酸化炭素も、光が見分ける
皮膚についた指紋を取る
銀行のATMなどで、指の静脈認証技術が使われています。これは赤外線を使った技術です。赤外線を指に当てて、透過してきたときの影絵を見て、静脈のパターンを判別し個人を認証しています。物質に光を当てて、それぞれが持っている特有のパターンである「分光特性」を見る技術はさまざまな分野での応用が期待されています。
皮膚についた指紋を採取しようという研究が進められています。犯罪捜査などでの指紋採取にはいろいろな技術があり、ガラス面やぬれた金属面などからは取れますが、皮膚の表面に付いた指紋は取ることができません。例えば首を絞められた被害者の首には指紋がたくさん付いている場合が多く、有力な証拠となるのですが、現在では採取する方法がありません。指紋の成分はアミノ酸と脂質です。皮膚の表面に付いているアミノ酸と脂質の分光によるスペクトル(波長の順に並んだ色の帯)を見ることで、指紋が取れるようになれば、犯罪捜査はいちだんと進歩します。
二酸化炭素濃度を測る
分光を使って、環境の計測をする取り組みもあります。2009年に打ち上げられた「いぶき」という日本の人工衛星は、天体の「二次元分光イメージング」ができます。この技術により、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などのガス濃度分布を、分光による吸収スペクトルから測定します。従来は、地球上に数百点の二酸化炭素濃度を測る観測点がありましたが、宇宙から計測することで観測点が何万点にも増えます。これを可能にしたのは「フーリエ変換分光器」を使った、精度の高い分光方式です。これまで研究室での実験段階では使われてきましたが、人工衛星に積んで宇宙から地球を計測するのは画期的なことです。「いぶき」によって、地球全体のガス濃度の分布が明らかになります。
分光技術は、これからも数多くの分野で活用されていきます。基礎的な技術があれば、顕微鏡にも天体望遠鏡にも活用でき、計測する対象の大きさにかかわらず物質の特性を計測することができます。
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