講義No.13670 法学

憲法だって、生きている?

憲法だって、生きている?

生ける憲法

憲法とは、国のあり方について定められた決まりであって、動物や植物のような生き物ではありません。しかし、社会を取り巻く状況や人々の意識が大きく変わった時には、憲法の条文それ自体は変わらないままでも、解釈の仕方が柔軟に変化して対応することがあります。そのような状況を指して、憲法が「生きている」と考えることも出来るのです。

アメリカ合衆国憲法の柔軟性

世界恐慌に見舞われた1930年代、アメリカではニューディール政策が行われました。従来の自由主義に反して連邦政府が経済に積極的に関わるこの政策の実施には、憲法改正が必要ではないかとの議論もありました。しかし、強いリーダーシップを発揮したF・D・ルーズベルト大統領が国民からの支持を受けて、結果的に憲法は改正されないまま解釈だけが変わることになりました。その後、1960年代の公民権運動では、人権に対する人々の考えが変わり、人種差別撤廃をうたう公民権法が成立しましたが、ここでも憲法条文に変化はありませんでした。しかし、これらの変革は、主権者の意思を反映した「生ける憲法」であると理解する有力な見解が主張されています。

国の果たすべき憲法上の責任を考える

グローバル化が進んで、日本国内にも外国にルーツを持つ人々の数は増えています。それにつれて、これまで見落とされていたさまざまな問題の深刻化と表面化が進んでいます。例えば、子どもたちの教育問題です。外国人の子どもも日本の学校に通うことは可能ですが、日本語の会話や読み書きが苦手な子が多く、学校の授業についていけません。教員の側にも、そういった子どもたちを丁寧にケアするだけの人的、時間的余裕がないのが実情です。これは国が責任をもって対処すべき問題であり、実際に2019年には「日本語教育の推進に関する法律」が成立・施行されました。しかし法学の観点から見ると、今ある憲法の条文を前提に、国はどのレベルまで対応しなければならないのかについて、まだ十分には議論が煮詰まっていないとも言えるのです。

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東海大学 政治経済学部 政治学科 教授 大江 一平 先生

東海大学 政治経済学部 政治学科 教授 大江 一平 先生

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憲法論、法学

メッセージ

法学は、政治や社会に関心がある人に向いている学問であり、日頃の地道な努力が報われやすい学問でもあります。もちろん、覚えなければいけないこと、大変なことはたくさんありますが、積み重ねていくことで確かな成果が得られるはずです。高校の勉強は、必ずどこかで大学で学ぶ内容とつながっています。法学の場合、英語や国語はもちろん、論理的思考のためには数学が、法律の背景を理解するためには日本史や世界史の知識が必要ですから、高校生のうちに各教科をしっかりと学んでおいてほしいです。

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