介護事故、介護者は罪に問われるのか?
准看護師が業務過失致死罪で一審は有罪に
2013年、長野県の特別養護老人ホームで、おやつのドーナツを喉に詰まらせ入所者が亡くなるという事故が起きました。付き添っていた准看護師は業務上過失致死罪で起訴され、見守りを怠ったとして一審は罰金20万円の有罪判決が下されました。この判決を受け、無罪を求める医療従事者の署名は73万筆にのぼりました。その後、東京高裁で開かれた控訴審では、一審判決には事実誤認があるとして無罪が言い渡され、東京高等検察庁も上告しなかったため、准看護師の無罪が確定しました。控訴審の前には、高等検察庁に対して4500の医療団体が上告断念の要請書を提出していました。
リスクゼロをめざせば現場は萎縮する
このような介護事故が起きた場合の裁判は、ほとんどは運営法人に対する民事訴訟であり、職員個人が刑事責任を問われることは極めて異例です。ここで注目したいのは、無罪を求める73万筆の署名が集まり、4500団体が支援の声を上げたことです。介護の現場は、こうした事故が起きないよう細心の注意を払っていますが、リスクはゼロではありません。事故のたびに職員個人が罪に問われるようになれば、関係者は萎縮してしまいます。その結果、おやつの提供をやめたり、安全が保障できない高齢者の受け入れを拒否したりすることになる可能性があります。就職希望者の減少も考えられ、人手不足に拍車がかかり介護の現場が立ち行かなくなるかもしれません。こうした危惧を介護に関わる多くの人が表明したのです。
判例を検証しリスクと向き合う
リスクは不安要素ですが、ゼロにすることはできません。しかし過去の事例から介護の本質を理解し、事故を減らす対策を講じて介護を提供することは可能です。老後は誰にでも訪れるものです。すべての人が当事者意識を持つこと、また介護現場で働く職員と、入所者の家族が対話を重ね情報を共有することも、食べるという楽しみを失うことなく幸せな老後を過ごすための、今後の重要な取り組みです。
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東北福祉大学 総合福祉学部 福祉行政学科 教授 菅原 好秀 先生
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