再生医療で取り戻す「口の健康」
「削る」「詰める」だけが歯の治療じゃない
「歯の治療」と聞くと、むし歯になった部位を削ってそこに詰め物をするというイメージかもしれませんが、歯の治療や歯科の研究とはそうしたものばかりではありません。歯を失うことになる主な原因として、口内細菌によって起きる歯周病があり、歯周病に対する予防や治療が、現在の歯科医療の大きなテーマの一つとなっています。
幹細胞を活性化する薬
歯周病は、細菌がバイオフィルムと呼ばれる膜状のかたまりになって歯と歯ぐきの隙間などに入り、歯ぐきや歯を支える骨などの歯周組織を破壊していく病気です。通常、破壊された歯周組織は自力で元に戻ることができません。
ただ人体には、筋肉、脂肪、骨や軟骨などさまざまな細胞に変化することができる「間葉系幹細胞」と呼ばれる細胞があり、歯周組織の中にも存在しています。近年、歯周組織内の幹細胞を活性化させる効果のある薬剤が開発されて、それを使用することで、歯周組織が再生できることが見出されました。この薬剤は2016年に実用化されています。
皮下脂肪の幹細胞を移植
歯周病が進行すると、歯周組織にある幹細胞の数が減っていくために、本人の別の組織から幹細胞を移植する、という試みも行われています。腹部の皮下脂肪を採取して、そこに含まれる幹細胞を培養して数を増やした上で、歯周組織に移植します。そうすることで、失われた組織を再生することができるのです。この治療法は、臨床研究ですでにヒトに対して安全性と有効性が確認されており、現在はさらに治療効果を高めるために研究と試行が繰り返されている段階です。
一連の研究には、幹細胞の機能や働き自体について解明していくことも含まれます。幹細胞は、医科の分野では、臓器や組織の再生医療の要として、高い注目を集めています。今後は、歯科の研究で得られた成果が、医科で生かされることも期待されています。
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