歯を支える「骨が溶ける・増える」仕組みとは―分子生物学の世界
歯にとって「骨」が大切なワケ
歯は歯槽骨というあごの骨に支えられていますが、この骨は歯の健康にとても大事な存在です。骨に支えられているおかげで歯はしっかりしていますが、口の中の細菌が原因で起きる歯周病を放置しておくと、この骨が少しずつ失われて歯を支えきれなくなり、歯が抜けるという事態を引き起こしてしまうのです。
一方、歯列矯正でも骨は重要な役割を果たします。矯正ではきれいな歯並びにするために歯を引っ張りますが、それによって骨に力がかかると、移動する先の骨は溶けて歯の移動場所を作り、逆に隙間となる元の場所には新たな骨ができるという作用がみられます。同様に骨に人工歯根の金属を埋めるインプラント治療でも、骨は金属と一体となったように密着するので、倒れないでしっかりするのです。
骨や軟骨にもなる幹細胞「間葉系幹細胞」
この「骨が溶けたり、増えたりする」のは一体どんな仕組みなのでしょうか。
骨を増やすには骨芽細胞という細胞が、骨を溶かすには破骨細胞という細胞がはたらきます。そして、骨芽細胞を増やして骨を造るには、そのもとになる「間葉系幹細胞」が重要になりますが、間葉系幹細胞はさまざまな細胞になる能力を持っており、骨だけでなく、象牙質、軟骨、脂肪にもなることができます。ただし、何になるかは転写因子の違いだと言われています。転写因子は間葉系幹細胞の核の中で働いて遺伝子の発現を促すものです。どんな転写因子があれば骨や軟骨になるのかという研究は、最近の遺伝子工学技術の発展により飛躍的に進歩しています。
遺伝子レベルでメカニズムを解明
このように最新の分子生物学を駆使して遺伝子レベルでのメカニズムが解明されれば、骨を溶かす・増やす薬の開発にもつながり、歯周病で失われた骨を元に戻して歯を守ることができるでしょう。また長い時間を要する矯正治療期間やインプラントの骨への定着期間の短縮ということも可能になってきます。これは口の中の治療だけでなく、全身の骨や軟骨に関わる再生医療への期待が広がる研究でもあるのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 歯学部 生化学講座 准教授 波多 賢二 先生
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