宗教的価値観と変化する経済の中で、したたかに生きる女性たち
ウズベキスタンの刺しゅう
イスラム教を信仰する人々が多く暮らす、中央アジアのウズベキスタンでは、伝統的に刺しゅうづくりが行われてきました。部屋を飾る壁掛けやベッドシーツ、礼拝用の敷物などに使われ、美しい装飾が施されている点が特徴です。従来は嫁ぎ先に持ち込む花嫁道具として、女性たちの手によってつくられてきました。同国が20世紀初頭に社会主義国家・ソビエト連邦の構成共和国に組み入れられると、それまでは家の中で家事や育児に従事していた女性たちに教育の機会が与えられて、学業を終えたあとは女性も企業や工場で働くという生活スタイルを送るようになりました。これに伴い家庭で行われてきた刺しゅうづくりも徐々に衰退していきます。
女性たちのビジネスに
1991年にソビエト連邦が崩壊すると、ウズベキスタン社会にも混乱が生じます。働く女性たちも給与の未払いなどの困難に直面しますが、そこで伝統産業であった刺しゅうに着目して事業化した女性が現れました。美しく質の高い刺しゅうを欧米などの観光客向けに販売することで、男性が稼ぐよりも多くの収入に結びつく刺しゅうビジネスは女性たちの間に広まっていきました。しかしウズベキスタンはイスラム社会であり、家庭では男性がお金を稼ぎ、女性は家事や育児をするという価値観が根付いています。それでもビジネスを営む女性たちは、家長にあたる男性を尊重しつつ、女性の友人や親戚同士で協力しあって育児や家事をこなすことで、ビジネスと家庭をうまく両立させてきました。
現地での調査を通して
イスラム教といえば「女性は男性に従属させられている」といったイメージをもたれがちです。しかし、現地の女性たちを長期に渡って観察すると、そうしたステレオタイプなイメージとはかけ離れた、したたかで力強い姿が見えてきます。このように、現地の伝統産業と女性たちの結びつきを調査して見えてきた事実を客観的に捉える研究からは、日本で生きる私たちにとっても有意義なヒントを数多く見いだすことができます。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。