国際紛争を理解するには、歴史を知るべし
歴史に翻弄されたウクライナ
ウクライナは、旧ソ連を構成した共和国のひとつで、ソ連の崩壊で独立国家となりました。近年、東部地域の分離独立問題で世界から注目を集めるようになりましたが、ひとつの国の中でこうした争いがなぜ起きるのか、理解できない日本人は多いでしょう。
1917年のロシア帝国の崩壊でウクライナ共和国が誕生したのですが、それ以前には、「ウクライナ」という国は存在していませんでした。しかも当時のウクライナ共和国は、現在の西部地域が含まれていませんでした。西部はポーランド・リトアニア共和国、その後オーストリア帝国に支配され、第一次世界大戦後はポーランド共和国の領土でした。ソ連に併合されたのが1939年で、ほかの地域より20年以上後のことなのです。つまり、現在のウクライナ共和国は、ひとつの国でありながら、地域によって全く異なる歴史や文化を持っているのです。
言語や宗教のアイデンティティは重なり合っていた
旧ソ連を構成する15の共和国の枠組みは、ウクライナと同様、ソ連時代に作り出されたものです。例えば、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの中央アジアの5カ国の国境線は、1924年前後に大論争の末に引かれ、1936年に確定したものです。それ以前には、カザフ人、キルギス人といった概念は一般的ではありませんでした。国家という概念以外に人々のアイデンティティの拠りどころとなっていたのは、言語や宗教など、さまざまな要素ですが、それらは複雑に重なり合っているため、国民国家のような明確な区分けはなかったのです。
国境や国家の枠組みは不変ではない
旧ソ連の構成国に限らず、現在国家として存在している多くの国の枠組みは不変ではなく、また、それぞれの国や地域の歴史的な経緯が、現在、世界で起きているさまざまな問題と深く関わり合っていることも少なくありません。したがって、世界の諸問題を理解するためには、現在だけではなく、歴史的な流れを理解することがとても重要なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京外国語大学 国際社会学部 国際社会学科 教授 鈴木 義一 先生
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