水素が金属をもろくするミステリー

見えない水素で鉄が割れる
金属は強く丈夫な性質を持ち、建物や乗り物、機械の部品など、私たちの身の回りで幅広く使われています。しかし特定の条件下では、金属が突然もろくなり、割れるように壊れてしまうことがあります。普通なら金属は引っ張られると少しずつ変形してから壊れますが、まるでガラスのように一瞬で割れてしまうのです。
この現象は「水素脆化(すいそぜいか)」と呼ばれ、水素原子が金属内部に侵入して強度を低下させることで発生する現象です。水素は世界最小の原子で、金属の格子間をスルスルと通り抜けます。特に金属に力がかかると原子間の隙間が広がり、そこに水素が集まりやすくなります。集まった水素が金属をもろくして、割れるような壊れ方を引き起こすのです。この現象のメカニズムは複雑で、まだ完全には解明されていません。
コンピュータで探る水素の行方
水素はとても小さいため、その挙動を直接は観察できません。そこで、コンピュータシミュレーションを活用した研究が進んでいます。金属内部のどこに水素がたまるのか、どのような条件で水素が集まりやすいのかを理論的に解明しようとする試みです。例えば、金属を引っ張る速度を変えると水素の集まりやすさが変わり、あるスピードで限界を迎えることがわかってきました。
こうした研究は水素エネルギー社会の実現に欠かせません。現在の水素ステーションは水素脆化しにくい特殊な材料を使用しているため非常に高価です。より安価な材料でも安全に使える条件が解明できれば、水素エネルギーの普及が加速するでしょう。
日本発の学問「材料強度学」
このように、材料は単に「強い・弱い」だけでなく、温度や繰り返しの力など、使用環境によって壊れ方が変わります。材料の強さが使われ方や環境によって変わることを体系的に研究する分野が「材料強度学」です。日本人の横堀武夫先生が世界で初めて確立しました。目立たない分野ですが、私たちの安全な生活を支える重要な「縁の下の力持ち」なのです。
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湘南工科大学工学部 機械工学科 教授大見 敏仁 先生
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