日本社会と儒学 江戸時代から現代へ
江戸時代の儒学者に学ぶ
孔子の思想を体系化した「儒学」は、江戸時代には教育の礎として利用され、日本社会に大きな影響を与えました。江戸時代の儒学者の文献を読み解くと、現代社会にも通じる知恵が書かれています。例えば、江戸時代の代表的な儒学者の一人である山鹿素行(やまがそこう)は、上に無分別に従うのではなく、自ら学び判断することの大切さを説きました。社会の中での立場を考えながら、地理や歴史、思想を学ぶことで判断力を養い、その上で相手の立場を理解して、お互いの関係を踏まえて両者にとって最も良い方法を選ぶという考え方です。江戸時代の儒学者の文章を丁寧に読むと、女性の立場への理解が見られることもわかります。
低評価の理由はどこに
現代の日本では、儒学は古いというイメージを持たれており、女性を抑圧する思想として否定的にも捉えられがちです。一方、中国では儒学が再評価されるようになり、韓国ではフェミニストの作家も儒学から学ぶべき点があると考えています。日本での低評価は、江戸時代から現代に至るまでに儒学がどのように利用されて受け止められてきたかが影響していると考えられます。現段階では、儒学が本来持つ思想と、国家イデオロギーに利用された儒学のイメージとの乖離(かいり)だと推察されているのです。明治時代につくられた国家や国民という概念に儒学的な言葉が使われ、大日本帝国憲法や教育勅語にも儒学的な概念が入っています。しかし、そこに書かれている男女関係や「忠孝」の概念は、江戸時代の儒学者の文献に書かれているものとは大きく異なるのです。
思想史は学際研究
ある思想が社会の中でどう受け止められて利用されてきたかを研究するためには、社会・文化、そして言葉の変遷を知り、相互にどう影響し合ってきたのかをひも解く必要があります。思想史の研究は社会史や言語史などとの学際的な研究なのです。そして思想の歴史を明らかにすることは、今の社会がどのようにつくられたのかを理解する手段ともなるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。