キリスト教的世界観に大打撃を与えたのは宣教師だった?
中国の影響を受けていた啓蒙思想
18世紀にフランスを中心としたヨーロッパで啓蒙(けいもう)思想は勃興しました。それまで主流だったキリスト教的世界観に対し、人間の理性にもとづく世界観の構築をめざしたこの思想は、ヨーロッパの近代化だけでなく、19世紀以降のアジア諸国や日本の近代化をも促したものと考えられています。
意外なことに、こうした啓蒙思想は、中国古来の思想の影響を多分に受けていました。それまでのヨーロッパでは、聖書中心の世界観が支配的であり、世界史も聖書にもとづいて書かれていました。しかし18世紀フランスの啓蒙思想家ヴォルテールは、古くから天体観測による客観的データをとりいれた中国の歴史書に大きな影響を受け、信頼できる新たな世界史の執筆に積極的に取り組むようになったのです。
中国に渡ったイエズス会の宣教師たち
では、中国の思想や歴史などの文献は、どのようにしてヨーロッパに伝わったのでしょうか。
16世紀末に中国に渡って活躍したマテオ・リッチをはじめとする宣教師たちは、18世紀まで中国各地で活発な布教活動を行いました。それと同時に、彼らはヨーロッパから天文学や数学などの知識、およびさまざまな技術や機器などを中国にもたらしたので、当時の明朝や清朝の皇帝も彼らの布教活動を寛大に許していたところがあったようです。
宣教師たちが翻訳した中国の思想
中国に派遣された宣教師たちのなかには、学問的に優秀な人々が多くいました。彼らは現地の言葉を習得し、さまざまな文献を読み込み、書物をそのままヨーロッパに持ち込んだり、自らラテン語やフランス語に翻訳してヨーロッパで出版したりしていました。『論語』『大学』『中庸』といった儒教の書物や、歴史書の数々は、宣教師によってヨーロッパに渡来したのです。こうして伝わった中国の書物の内容は、宣教師たち自身の思惑をも超えて、キリスト教的世界観の見直しに取り組んでいたヨーロッパの啓蒙思想家たちに多くの刺激を与え、強力な後押しとなったのでした。
参考資料
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大東文化大学 文学部 歴史文化学科 准教授 新居 洋子 先生
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