江戸時代の絵よ、よみがえれ! 芝居絵の「想定復元」プロジェクト
高知で愛された絵師・絵金
弘瀬金蔵(絵金)は、江戸時代の末期から明治にかけて活躍した高知県出身の絵師です。江戸で絵を学んだ後に高知に戻り、農民や漁民のために芝居絵を描くようになりました。絵金派の屏風(びょうぶ)絵は評判が高く、江戸時代からそれぞれの町のシンボルとして扱われ、夏祭りでは町同士での絵比べによって豊穣(ほうじょう)を願うなど地域に愛されてきました。しかし、時代の変化とともに絵金派の画風を受け継ぐ絵師は減り、昭和8年ごろにはその系統は途絶えています。現代では地域で保管されている屏風絵の損傷も激しく、祭りの存続も危ぶまれています。
破損した芝居屏風絵の「想定復元」
2011年に、絵金の弟子である柳本洞素(やなぎもととうそ)作と思われる屏風絵が、高知県内の神社で七割方破損した状態で発見されました。有識者が鑑定したところ、屏風絵の題材は「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」という芝居の一幕であることがわかりました。地域的にも歴史的にも重要な文化財であることから、破損した作品をもとに完成図を想定して復元するプロジェクトが始まりました。
損傷箇所の一部を採集しての科学的な調査が行われて、下地の材質が竹紙(ちくし)であることや、絵の具には輸入品のウルトラマリンや花緑青などの合成顔料が使われていることも判明しました。また、絵金派はかなりの早筆であったと言われており、その筆勢を再現するために数年間かけて筆致が研究されて、当時と同じ条件の下で想定復元が完成したのです。
時を超えて引き継がれる技術と伝統
近年、新たに絵金派の墨一色で描かれた下書きが発見され、これについても想定復元が予定されています。また、復元の工程を表すために、作業途中の状態を含めた段階的な展示も考えられています。こうした取り組みにより、過去の技術や地域に根付いてきた伝統を次世代に伝えることができます。さらなる研究を継続していくことで、途絶えていた絵金の系譜が新しい形で未来に引き継がれていくはずです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
高知大学 教育学部 学校教育教員養成課程 人文社会科学系教育学部門 准教授 野角 孝一 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
日本画、芸術実践論先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?