「素朴さ」に美を見出した日本美術の独自性
「ゆるキャラ」のご先祖様は室町時代にあった
あなたがよく知っている「ゆるキャラ」や「カワイイ」の源流が室町時代にあった、と聞いたら驚きますか? 試しに「長谷寺縁起絵巻(はせでらえんぎえまき)」などの室町時代の絵巻物や、江戸時代の禅画や大津絵(おおつえ)などを見てみてください。素朴で思わず「カワイイ」と言いたくなる絵が出てきます。また、俳人の与謝蕪村は、しっかりした技術をもつ画家でもあったのですが、あえて素朴な絵を多く描いています。このような素朴な美術は、平安時代の貴族文化が徐々に庶民に広まっていく過程で生まれました。
なぜ日本の文化は素朴な方向に向かうのか
中国の文化は古代日本にとって大先輩にあたります。その美術は「いかに本物らしく描くか」を追求する、完ぺきをめざすものでした。日本は、その美意識を見習うべき対象として受け入れようとしたはずですが、あるフィルターが働いて、違う方向に向かいました。そのフィルターとは、完ぺきなお手本を理解した上で、それと同じ方向に進むことに価値を見出さず、完ぺきを突き抜けた素朴さや、歪みを美とする日本人の独特な美意識です。このような美意識が生まれた理由は、日本がアジアの中心ではなく周辺に位置しているからだと考えられます。また、日本の気候風土とも関係があるでしょう。日本家屋のように開放的な建築で、自然の要素を取り入れ、自然と共生する生活風土もこのような美意識が作られた背景にあると考えられます。「わび」という、歪みやシミをよいとする考え方も、この美意識に含められるでしょう。
この「素朴がいい」という美意識は、世界で初めて出てきたものではないかと考えられています。
グローバル化時代に必要な視点
現代はグローバル化が進み、世界中がどこも同じような文化に染まりつつあります。そういう時代には文化の周辺こそが独自の文化を作り上げます。これからは、そのような独特の視点がますます重要になってきます。そういった意味でも、日本美術の独自性はこれからますます注目を浴びるでしょう。
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