天然資源から新素材を! 化学で開くキトサンの未来
豊富な天然資源「キチン」「キトサン」とは?
甲殻類の殻や昆虫の外皮、キノコ類には「キチン」という高分子が含まれています。「Nアセチルグルコサミン」という糖の一種が鎖状につながっており、そこに含まれる官能基「アセチル基」を「アミノ基」に変化させると「キトサン」という物質に変わります。キトサンには抗菌作用や生体適合性があり、抗菌グッズや、人工皮膚といった医療素材などさまざまな製品の原料になっています。自然界では年間10~1000億トンものキチンが生合成されていると推定されていることから、キチンやキトサンは豊富な天然資源と言えます。
水に溶ける機能強化キトサン
「官能基」とは高分子についている特定の構造を持った分子で、官能基の違いで高分子の性質が変わります。そこで、官能基を変化させたり置き換えたりする「化学修飾」によって、新しい機能を持ったキトサンを合成する研究が行われています。
一つの例が「水に溶ける機能強化キトサン」です。従来のキトサンは酸性の環境でないと溶けにくいという制約があり、医療素材として使う時も、人間の体内の中性の環境では十分に性能を発揮できませんでした。しかし、キトサンのアミノ基を「グアニジノ基」という官能基に化学変換することで機能を強化し、かつもともとのキチンについている「アセチル基」を増やしたキトサンを合成したところ、水に溶けることがわかりました。
化学で広がる天然資源の用途
この「水溶性グアニジル化キトサン」は、キトサンよりも10倍もタンパク質を吸着して、さらに細胞への取り込まれやすさも2倍に強化されていることがわかりました。この特性により、高性能な抗菌グッズや、薬を患部細胞まで運んで作用させる「ドラッグデリバリーシステム」への応用が見込まれます。豊富な天然資源の新しい用途が生まれると期待されています。
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先生情報 / 大学情報
宮崎大学 工学部 化学生命プログラム 教授 井澤 浩則 先生
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