鉄の結晶構造の面白さ~日本刀の強さを読み解く~
日本刀の強さは「焼入れ」から
鉄に千分の一程度の微量の炭素を含む合金が鋼(はがね)です。この鋼の強度を高めるために、「焼入れ」という熱処理の方法があります。日本刀を作るときに、高温に熱した鋼を水の中に入れ、急激に冷やしているのを見たことがあると思いますが、日本刀の強さの要因はこの焼入れにあります。
では、焼入れとはどんな仕組みなのでしょうか。それには鉄の結晶構造の面白い特性が関係しています。
硬い結晶構造に変態するポイントは「急冷」
鉄の結晶構造は常温では体心立方格子、911℃以上になると面心立方格子に変化します。これらの構造を持つ相はそれぞれ「フェライト」と「オーステナイト」と呼ばれます。このフェライトに炭素が多く含まれていると鉄は硬くなるのですがたくさん含むことができません。オーステナイトはそれなりに炭素を含むことができるのですが、室温では不安定です。フェライトにたくさんの炭素を溶け込ませるためには、炭素を多く含むオーステナイトを、炭素が逃げ出さないうちに「急冷」してフェライトにする必要があります。これを「焼入れ」といいます。この焼入れにより現れる炭素を多く含む「普通の」フェライトとは異なる硬い相を「マルテンサイト」といいます。さらに焼入れにより結晶の並びが乱れ、さらに硬くなるだけではなく壊れにくくもなります。この無理やりたくさんの炭素を入れることで強度の高い相ができるこの仕組みを、日本刀づくりでは昔から経験的に利用してきたというわけです。
まだまだ進化中の鉄鋼材料
このように材料科学では、電子顕微鏡やX線回折(かいせつ)などで材料の持つ構造を特徴づけ、強度などの機械的特性や原理を系統的に調べていきます。その中で鉄鋼材料も、高温加工や温度の上げ下げ、混ぜる元素の選択や割合の調整などをして、硬さや粘り強さ、摩耗への耐性など多様な要求に応じた作り込みが研究されています。そういう意味では、古くから利用される「鋼」も、材料としてまだまだ進化中なのです。
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先生情報 / 大学情報
島根大学 材料エネルギー学部 材料エネルギー学科 教授 森戸 茂一 先生
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