真のクリーンエネルギーへ! バイオマスで作るイオン伝導膜
燃料電池の残念な点
水素と酸素から直接電気を取り出す燃料電池は、クリーンな発電装置として知られています。また水素は、水電解により製造することができます。ただし、燃料電池や水電解水素製造装置の部材であるイオン伝導性の高分子膜は、ほとんどが「化石燃料」をベースに作られています。さらに自然界で分解しにくく人に対する毒性が指摘されている有機フッ素化合物(PFAS)を含んでいるケースが多く、製造や廃棄時における環境への悪影響が否定できません。そこで、セルロースやキトサンといった「バイオマス」を原料にしたイオン伝導性高分子の開発が進められています。
耐水性とイオン伝導性がカギ
燃料電池や水電解水素製造装置の電極の間に使われる「イオン伝導性高分子膜」には、気体は通さずイオンだけを通すイオン伝導性が必要です。また、加湿環境や水中で使用されるため、耐水性も必要です。多糖であるセルロースやキトサンは分子構造に親水性のヒドロキシ基やアミノ基を多く持つため、そこにさらにイオン伝導性に必要なイオン基をつけると、水に溶けたり、水を吸収して膨らんで強度が低下してしまいます。そのため、セルロースやキトサンの親水基を疎水基に変えて十分に耐水性を高める必要があります。
分子構造制御に着目した新技術
これまで、セルロースやキトサンの分子構造を精密に制御する技術はあまりなく、イオン伝導性高分子膜として使うためには、大ざっぱにイオン基を導入しつつ、架橋したり別の素材にしみ込ましたりすることで耐水性や強度を上げていました。これに対して新しく考案されたのが、低分子を扱う方法を応用して分子構造を精密に制御する技術です。この新しい技術により、キトサンのアミノ基を疎水基に変換する精度を大きく上げることに成功しました。また新しい技術は分子構造の操作しか行わないため、膜を作るプロセスが簡単であることも特徴です。次のステップとしてイオン基の導入が研究されており、最終的にはバイオマス原料のイオン伝導性高分子膜の実用化が目標とされています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。