科学技術の発展が法律上の母子関係にもたらすもの
科学の進歩が生んだ代理出産
「代理出産」は、子宮に問題があるなどの理由で妊娠・出産できない女性が、生殖医療技術を使ってほかの女性に自分の子どもを出産してもらうことを言います。諸外国では代理出産について立法化されている国が多く、フランス、ドイツなどでは法律で禁止されています。現在の日本では、代理出産自体は禁止も許可もされていません。
法律上の母親は誰?
では、代理出産をした場合、法律上の母親はいったい誰になるのでしょうか? 現在、民法において法律上の母親は「子を産んだ女性」となっています。これを代理出産に当てはめると、代理母が法律上の母親となります。
以前、妻が病気で妊娠できなくなった有名人夫婦が、夫の精子と妻の卵子で体外受精した受精卵を米国の代理母に依頼して代理出産に踏み切りました。生まれた子どもを帰国後に夫婦の実子として出生届を出しましたが、区役所に受理を拒否されました。このケースは裁判で争われましたが、最高裁で受理を認めない判断が下されています。
望まれる時代の変化に対応した法整備
最高裁はなぜ「法律上の母親=子を産んだ女性」という姿勢を貫いているのでしょうか。それを解くカギは「子の利益」です。さらに、代理母出産には、「代理母を単なる道具として使っているのではないか」などさまざまな倫理上の問題があり、これは裁判所で決めるのではなく国民の議論を踏まえたうえで政策として決定すべきものだという考え方があります。
専門家の集まりである日本学術会議では、代理出産を原則禁止としつつも、一部試行的に許容し、「依頼した母と生まれた子については、養子縁組によって親子関係を成立する」という提案をしています。代理出産は病気や先天的な要因で妊娠できない女性にとって、子どもを持つ1つの方策です。国民がこの問題に興味をもって議論を重ね、法整備をしていくことが、より良い社会を作ることにつながるはずです。
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先生情報 / 大学情報
桃山学院大学 法学部 法律学科 教授 永水 裕子 先生
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