「人の肌」をどう描くか 日本画の表現技法
人の肌を描く
人の肌を良く見ると、部分によって厚みに違いがあったり、血管が透けて見えたり、光や内側の骨格に合わせて陰影ができていたりします。時に美しく、時に複雑な表情を見せる人の肌をいかに表現するかは、絵画制作における重要なテーマの一つです。自分が理想とする肌を描くには、まず「自分がどんな肌が好きなのか」を明確につかんだうえで制作に臨むことが重要です。そのためにはモデルなど実際の人の肌をじっくりと観察して、デッサンしながら「自分が描きたい肌」を作りあげていくプロセスが必要です。
日本画の表現
日本画で肌を美しく描くには、ごまかしがききにくく、より繊細な技術が求められます。日本画は、鉱物を砕いて作る岩絵具という絵の具や炭、膠(にかわ)といった画材を用いることで、西洋画(油絵)にはない質感を生み出します。また、和紙や絹など日本画ならではのものを用います。和紙といっても複数の産地があり、その種類は数百に及びます。それぞれに薄さや色を重ねた際の風合いが異なるため、いろいろな和紙を試しながら、「自分が描きたい肌」の質感が出やすい素材や条件を見極めなければなりません。
次世代への橋渡し
偉大な画家たちの絵画を参考にすることも有効です。例えば日本画家の上村松園、西洋画家の藤田嗣治や黒田清輝たちは、それぞれ異なる技法を用いて、その人にしか描けない肌の美しさを生み出したことで知られています。こうした先人たちが残した技法を分析して、そこに個々の試行錯誤によって生まれた新たな表現を加えることで、次の世代への橋渡しが実現します。また、先人の技術を取り入れることが大切である一方で、それが行き過ぎて「模倣」になってはなりません。特にデジタル技術が発展した現在では、簡単に構図をトレースすることができて、著作権が守られないケースが目立ちます。日本画だけでなく、芸術の研究や実践をさらに発展させるためには、著作権への理解を深めることも重要なのです。
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