マンガの線は、日本画に通ず

マンガの線は、日本画に通ず

輪郭線と日本画

マンガで人の顔を描くとき、大抵の場合は輪郭線を描きます。西洋画では輪郭線を描かない技法が主流であり、顔を描く場合も光と影を立体的にとらえて面的に表現します。しかし、日本画は線による表現が重要な要素です。水墨画や浮世絵に描かれた人物にも輪郭線が使われていることから、マンガの技法は日本画に通じるものだと言えるでしょう。

日本画とは

日本画は、日本の伝統的な様式を取り入れた絵画の分類です。特徴の一つとして、石や岩を砕いた「岩絵の具」を動物の骨や皮を煮た「膠(にかわ)」で溶くなど、使用する画材に天然の素材を用いることが挙げられます。色の数は限られますが、自然に近い色が表現できる魅力があります。色を作る場合は、パレットで絵の具を混ぜるのではなく、画面に塗り重ねて色を変化させます。この手法は、色の変化だけでなく、深みや立体感を生む効果もあります。一方で、岩絵の具はチューブの絵の具のようにすぐに使えるわけではありません。絵皿に岩絵の具を入れて、膠を加えてよく練り合わせ、さらに水を加えて濃度を調整するという手間がかかります。面倒に思えるかもしれませんが、色を作るたびに制作を中断して気持ちを落ち着かせる時間が生まれます。この間の取り方が、日本画の作品にも大きな影響を与えています。
もう一つの特徴は装飾性です。日本画はものが持つ本来の形を大切にしながら、画面上に大胆にレイアウトしていきます。さらに金箔(きんぱく)などを使った技法により、装飾性を高めています。

デジタルな表現

しかし、近年では伝統的な材料や技法が用いられるものだけでなく、デジタル技術を取り入れた日本画など、これまでにないハイブリッドな表現も生まれてきています。そのため、大学教育の中では、これまで日本画の基礎としていた写生からの制作と並行して、デジタル画像を用いた制作も始まっています。日本画は伝統と革新が融合する新しい表現へと進化しているのです。

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先生情報 / 大学情報

東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 日本画コース 教授(学部長) 長沢 明 先生

東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 日本画コース 教授(学部長) 長沢 明 先生

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絵画、ドローイング

メッセージ

自分の住んでいる場所の周辺を散歩してみましょう。歩いてみると、実は改めて気づくことが意外に多く、これまでは見過ごしていたことがたくさん転がっています。そこで何か一つでも発見すると、別の場所を歩いた時にも同じことが気になって、好奇心がどんどん広がっていきます。何気ない普段の生活の小さな発見が、大きなものに発展していく可能性を秘めていて、それが自分の美意識を磨くことにもつながります。まずは近所をさまざまな時間帯に歩いてみてください。

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1992年に開学した公設民営の大学です。デザイン工学部と芸術学部で15学科・コースがあり、「藝術立国」を教育理念に、「人と自然を思いやる想像力と、社会を変革する創造力を身につけ、自らの意思で未来を切り拓く人材の育成」を行っています。4年間で以下の能力を磨き、現代社会の抱える課題を解決できる人材育成を使命としています。
1. 想像力:本質を見ようとする姿勢、純粋な目
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