1個の点でAIはだまされる 進化計算で探る、誤認の「ノイズ」
ノイズ1個でAIをだます
AIの代表的な技術である機械学習では、大量のデータを用いて判断基準を学ばせます。例えば、画像認識の場合、「馬」を識別するためには、多数の馬の写真を使って学習を行います。これにより、AIは馬を認識できるようになります。
しかし、学習済みのAIでも、画像の中にほんの1ピクセルの「ノイズ」を入れるだけで、人間の目には馬にしか見えない画像を「飛行機」などと誤判定してしまう場合があります。画像にこのようなノイズを混ぜ込み、AIに誤認識させるものを「敵対的サンプル」と言います。
進化論をマネしたアルゴリズム
例えば、自動運転に使われるAIが、敵対的サンプルで悪意の攻撃を受けた場合、標識を見間違ったりして事故が起きてしまいます。こうした攻撃に備えるために、「進化計算」というアルゴリズムを使ってあらかじめ敵対的サンプルをつくり、どのようなノイズがAIをだますのかを調べる研究が行われています。
「進化計算」とは、生物の進化論を模倣した最適化手法です。生物は環境に適応した性質が次世代に受け継がれることで、最適な形に進化してきました。その「適者生存」の考え方を取り入れて、目的により適したものを残して絞り込んでいく、というような手法です。
17億通りの組み合わせも数百回の計算で
敵対的サンプルをつくるとき、例えば32×32ピクセルの画像であれば、その中のどのピクセルに、どんな色(赤、緑、青の成分の組み合わせ)の「ノイズ」を入れるとAIが誤認するかを特定する必要があります。この場合、17億通り以上の組み合わせからノイズを探索しなければなりません。進化計算を使うことで、数百回の計算でAIが誤認するノイズをつくる方法が確立できました。
また、通常AIはブラックボックスであり、その判定プロセスは不明です。敵対的サンプルをAIに与えて誤判定する過程を追うことで、ブラックボックスだったAIの判定基準を推測することもできます。このような使い方も敵対的サンプルの研究に期待される成果の一つです。
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