予測不可能に見えるものを可能に 確率論が開く世界
ランダムな事象の中にある法則性
私たちの周りには、サイコロを振ったときの目の出方のように、一見ランダムで予測不可能に思える現象がたくさんあります。しかし、そんな現象にも隠れた法則性があるのです。例えば、サイコロを多数回振ると、目が1になる回数は全回数の6分の1に近づいていきます。これが「サイコロを振る」という事象の不変法則です。ここで、「近づく」とはどういうことでしょう。それを数学的に正確に記述するのは非常に難しく、測度論という道具を使って取り組むのが、「確率論」の仕事です。
多彩な応用分野
確率論は古くから数理物理学との結び付きが強く、相互に影響を及ぼし合いながら発展してきました。特に量子力学は確率論と共に歩んできたといえます。確率論の工学的な応用も多々あり、代表的なものとして「組み合わせ最適化問題」があげられます。この問題は、要素の数が大きくなると簡単には解が求まりません。そこで、実用上は、確率論を使って近似解を求めることになります。金融工学やデータサイエンスといった新しい領域の中にも、確率論がベースとなっている分野が多々あります。AIの学習もその一つです。これらの分野も、確率論の研究成果が応用されるという一方的な関係ではなく、応用分野で得られた知見が確率論の進展をうながす相互関係となっています。
異なる分野に架ける橋
現代の数学研究においては、複数の分野に橋を架けて、相互に行き来しながら発展させることが大切な仕事になっています。数学の内部で橋を架けた有名な例として、整数論と楕円(だえん)方程式論を橋渡しして、フェルマーの最終定理の証明に大きな役割を果たした「谷山–志村予想」があげられます。数理物理学のような応用分野との間に架けられた歴史のある橋も含めて、どの橋も完成ではありません。幅を広げたり、強くしたりするための研究が続けられています。金融工学や機械学習といった新しい分野との橋も増えて、数学者が橋を工事するつち音があちこちで響いているのです。
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