糖尿病の合併症「神経障害」の原因と治療法を探る
日本人に身近な糖尿病
「糖尿病」とは、膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」という物質が減少したり、十分に働かなくなったりすることで、血液中の糖「グルコース」の濃度調節がうまくできなくなって発症します。日本人は民族的にインスリンの分泌能力が低く、り患率が高い傾向があります。
糖尿病の合併症でも発症率が高く、早期から症状が現れるのが「神経障害」です。初期の症状は無症状から、足の先の痛み、しびれなどの異常感覚を経て、感覚が弱くなります。進行すると自律神経の不調、足の壊死からの切断や、心不全での突然死にもつながる危険があります。治療法は見つかっておらず、薬剤や食事療法での対症療法が一般的です。
神経障害の仕組みを調べる
神経障害は、高血糖状態が長く続いた結果として神経が痛んだりすることで起こります。高血糖状態の改善のためグルコースを抑制する薬品が開発されましたが、それだけでは思うような効果が得られず、高血糖以外の神経障害の要因についての研究が続けられています。糖尿病のマウスを使った実験により、グルコースの代謝により発生する「終末糖化産物(AGEs)」という物質が、白血球のマクロファージ上にある「AGE特異的受容体(RAGE)」と結合すると末梢(まっしょう)神経への炎症誘導性を高めてしまい、炎症の起きた抹消神経ではインスリンがうまく機能できなくなることがわかってきました。この実験をもとに現在、RAGEにアプローチする治療法が検討されています。
未来のための病理研究
人体で、さまざまな病がどのように起きているのかを調べるには、その病が発症している部分をしっかり観察することが大切です。最新の病理学的研究では、マウスの神経細胞の塊(神経節)を3Dモデル化して、数や大きさ、位置関係をAIで解析して観察しています。
糖尿病は、薬で合併症を抑えることができれば、今までと変わらない生活を送ることができます。この研究から治療の幅が広がれば、病で苦しむ人にとって大きな希望になるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
弘前大学 医学部 医学科 分子病態病理学講座 教授 水上 浩哉 先生
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人体病理学、実験病理学、糖尿病学先生が目指すSDGs
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