クマと人がお互いの生活を守るには? 対策につながる生態を知る

クマと人がお互いの生活を守るには? 対策につながる生態を知る

クマの生態は謎だらけ

日本ではクマによる被害が社会問題になっています。例えば「OSO18」と名付けられた、家畜などを襲ったクマは世間から大きな注目を集めました。しかし本来クマの食物の8~9割が植物で、肉はあまり食べません。春・夏は草本や木の実に加えて昆虫や魚、秋はどんぐりや果実などを食べます。OSO18の食生活がなぜ変わってしまったのか、はっきりとした原因はわかっていません。OSO18に限らず、クマの生態はまだまだ謎に包まれています。知床におけるヒグマの1年の食生活サイクルがわかってきたのも、2020年代に入ってからでした。山に実る作物の量によってクマの栄養状態や行動範囲はどう変わるのか、人里への影響は出るのかなど、さらに研究が必要なテーマは山積みになっています。

GPSによる追跡調査

野生動物の保全や管理のために、まずはクマの生態を知ろうと、北海道の知床で追跡調査が行われています。ヒグマを捕獲して、GPS首輪をつけてから放逐して位置情報を取得することで、ヒグマの移動経路や生活している範囲、餌を食べている場所などがつかめます。調査が進むにつれて、ヒグマは人の居住域に近い場所でも生活や移動をしていることや、オスはメスよりも行動範囲が広いことがわかってきました。しかしヒグマが人の目に触れることはほとんどなく、うまく身を隠しながら行動していることが調査から明らかになりました。

人とヒグマの共存をめざして

ヒグマは警戒心が強く慎重な動物です。そのため、むやみに人目に触れるようなことはしません。特に大きなオスになればなるほど、より慎重になる傾向があります。人前に姿を見せないのも、人の存在を怖いと思っているからです。こうした本質的な性格が明らかになると、人が自分の存在を先に知らせておくことが、ヒグマに遭遇しないための効果的な対策だとわかります。研究成果を一般の人や行政にも地道に伝えていけば、人とヒグマがお互いに被害を出さないための啓発活動や、政策提案などが進むと期待されています。

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北海道大学 獣医学研究院 獣医学部門 環境獣医科学分野 教授 坪田 敏男 先生

北海道大学 獣医学研究院 獣医学部門 環境獣医科学分野 教授 坪田 敏男 先生

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野生動物医学、保全医学

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メッセージ

高校生の時は、まだ将来のビジョンが見えていないかもしれません。すでに興味や希望する進路があればそれを大切にすべきですが、先は長いので大学に行ってから考えても遅くはないと思います。まずは大学でしっかり勉強をして、そのなかで自分の将来を考えてもよいのではないでしょうか。人生のターニングポイントはどこかにあるはずで、特に大学ではあなたの進む道を決めるようなテーマに出会う可能性が高いでしょう。その時はあなたの努力や情熱を最大限に発揮して突き進んでほしいです。

先生への質問

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北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。