双子なのに父親が違う? 知られざるツキノワグマの生態

駆除ではなく共存を
長野県の軽井沢町では、自治体とNPO法人が協力し、30年近くにわたりツキノワグマの保護管理が行われています。一般にクマが出没すると駆除されることがほとんどですが、軽井沢では電波発信器を装着して森に戻す「学習放獣」が行われています。捕獲したクマを威嚇しながら放獣することで、いてはいけない場所を学習させて、被害の再発を防ぐものです。こうした地道な保護管理が、人とクマの共存をめざす上で重要な活動となっています。
野生のツキノワグマの社会とは?
発信器を付けたクマについては、その後の行動の追跡調査が行われています。また発信器装着時には血液や体毛などのサンプルを採取してDNA解析を行います。その研究の中で、例えば「マルチプルパタニティ」という、一腹の子供に複数のオス親がいる現象がツキノワグマとしては初めて確認されました。さらに、解析した個体のうち約半数のオス親は2、3個体で占められており、大型で力の強いオスが繁殖に有利であることも確認できました。またGPS首輪を装着することで、行動圏や季節による移動パターンの調査も行われています。親子関係のわかっているクマのデータを分析すると、行動圏の重なりがある一方で、餌が豊富な年と乏しい年では関係性が異なることも見えてきました。
まずはクマを知ること
このように収集データを解析することで、一歩踏み込んでクマを理解できます。相手を知ることが共存への第一歩です。クマ被害が増加傾向にある現在必要なのは、単に駆除するか保護するかを論じることではなく、状況にあわせた対策を取ることです。
例えば、GPSデータから季節ごとの出没予測を立てれば、効果的な対策が可能になるでしょう。またDNAデータからクマの血縁関係を調べることで、問題行動を起こしやすい個体の推定が可能になるかもしれません。軽井沢の取り組みがモデルケースとなり、ほかの地域での応用の可能性もあります。このような長期的な研究と実践が、今後さらに重要になるでしょう。
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日本獣医生命科学大学獣医学部 獣医保健看護学科 教授山本 俊昭 先生
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