オスとメスが別種? 驚異の「ウメマツアリ」

オスとメスが別種? 驚異の「ウメマツアリ」

オスがオスを産む? ウメマツアリ

普通、オスとメスが交配すると、両方の遺伝子を引き継いだ生命体が誕生します。しかし、ウメマツアリの場合はそうではありません。次の女王アリが生まれるときは、母親の遺伝子しか受け継がれず、オスには父親の遺伝子しか受け継がれません。つまり、オスはオスのクローンを作り、メスはメスのクローンを産んでいます。ウメマツアリのオスとメスは交配可能ながら、それぞれ遺伝的に分化している別種の生き物といえるものになっています。

生きるために働きアリをつくる

たいていの生き物は、メスが単為生殖できるようになると、オスを持つ意味がなくなり、オスはいなくなってしまいます。その後はメスだけが単為生殖をすることになるのですが、ウメマツアリの場合は、働きアリだけが父親と母親の両方の遺伝子をミックスされて産まれてきます。アリは働きアリ抜きでは社会を維持することができず、すぐに死に絶えてしまうので、働きアリは絶対に必要です。そこで、メスだけで単為生殖ができるのにオスが必要とされるのです。また、オスが父親のクローンとして作られるのは、働きアリになるのにオスとメスの異なる遺伝子が混ざり合うことが必要だからだと思われます。

常識では考えられない生き物のナゾ

オスとメスが遺伝的に分化し、それでも共存するというのは、多くの生き物の常識では考えられない、びっくりするような現象と言えます。生物学の専門家も、これは驚くべきことだと言っています。しかし、なぜ働きアリを作るときだけ遺伝子を混ぜなければいけないのかについては、まだはっきりとした答えは出ていません。
このように進化生物学というのは、生き物のナゾを解くことがテーマになっています。ただ単に動物を観察するとか、フィールドワークをするだけではなく、動物や生き物について、なぜそうなっているのかを「HOW」と「WHY」の両面から深く考えることが重要なのです。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 農学部 生物資源科学科 准教授 長谷川 英祐 先生

北海道大学 農学部 生物資源科学科 准教授 長谷川 英祐 先生

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進化生物学

メッセージ

基礎科学の疑問は、「HOW」と「WHY」のどちらかです。例えば「カブトムシのツノはどうやって長くなるのか?」という疑問はHOWで、答えは、幼虫のときに頭部にある細胞が伸びてツノになる、です。一方、WHYの疑問は、「なぜ角が必要なのか?」で、答えは、オスはエサ場でほかのオスと闘って排除し、メスを獲得するのにツノが必要だからです。両方答えてはじめてツノの意味が理解できます。それが役に立つかどうかは問題が生じてはじめて決まるので、基礎科学の意味は理解することそのものにあるのです。

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。