精神障害の当事者から聞く その人「唯一の」ストーリーを問い続ける
「当事者に学ぶ」という姿勢で臨む事例検討
精神障害者の方が利用するデイケア施設などでは、スタッフの研修として事例検討が行われています。これは、気になった場面や経過を仲間と共に振り返りながら、解決法を見出すのではなく、ケアの担い手としての自分のありようや心構えに気づくことを大切にしています。
精神障害の当事者と会い、その場に身を浸して話を聞いていると、資格試験で正答とされていることは本当だろうか、違うのではないかという「問い」を抱くことがあります。その問いを原点として、当事者に学び、理解し続けようとするのが事例検討です。
「問い」、「理解」し続けること、いずれも終わりはありません。
違いを大切にすること
「当事者が精神障害を抱えて生き抜くとは、いかなることか」をテーマに、精神障害の当事者にインタビューを積み重ねる事例研究は、当事者の一人一人が生きてきた経験の意味を探究することを目的としています。そして、一人一人の唯一といえる経験から、多様性を認め合うケアの視点を探究することをめざしているのです。
多様性とは「違い」です。人と違うこと、わからないことを見て見ぬふりをして排除するのではなく、「わからない」「わかり合えない」ことを大切にし、問い続けることで、多様性を認め合う社会へとつながっていくことが期待されます。
問い続けること
当事者に学ぶという姿勢で臨む事例研究は、「このようにして精神障害を治した」というような解決を導くものではありません。しかし、ケアの担い手として応答せずにいられない、一人一人のかけがえのない物語を見つけ出すことができます。その物語は、唯一でありながら、多様に織りなされ、変化していきます。
学問とは「問うことを学ぶ」ことであり、答えを覚え込むものではありません。正答を導くこと、わかることよりも、むしろわからないことの方が大切です。答えは一つではありません。わからないことを抱え、問い続けることは楽ではありませんが、その過程で生まれる新しい発見は楽しき営みとなります。
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