遊びの中で生まれる信頼と優しさ 虐待を受けた子どもへのケア
自由に表現できる場所
過去に虐待を受けた子どもへの心理ケアは、決まった曜日の同じ時間、同じ部屋で行います。その設定以外はすべて子どもの自由です。戦隊ヒーローごっこやままごとなど、したい遊びをして、治療者である心理カウンセラーはそれをすべて受け入れて、「共感的」に関わります。大人のカウンセリングでは自分の考えや感情を言葉で表現しますが、子どもはそれが容易ではありません。そのため、遊びの中での役割や演技を通して自分を表現することで、気持ちを解放させます。しかし虐待を受けた子どもの心は、愛着の対象である親から攻撃を受けて混乱した状態であるため、始めはカウンセラーに対して警戒心をぶつけてくることもあります。
影響は子ども時代だけではない
今、親と離れて児童養護施設で生活をする子どもの約7割が過去に虐待を受けています。そういった子どもの発達促進や心の傷を乗り越える援助のために、1999年から専門職による心理ケアが行われるようになりました。虐待が影響するのは子ども時代だけではありません。子どもは自分の心の中に「親のイメージ」を取り込んでしまうため、親になった時に自分の子どもと安定した関係を築くことができず、虐待を繰り返す場合もあります。この世代間伝達をくい止めるためにも、子どもの中に「肯定的な親のイメージ」をつくる育ちの支援が必要なのです。
そっとタオルケットを掛ける
カウンセラーとの定期的な面接を積み重ねていくと、子どもたちの中で少しずつ「自分の理解者がいる」という実感や信頼感が生まれます。そこから今まで語れなかった親子関係やつらかったことなど負の感情を話し始める子もいます。また、例えば子どもが母親役でままごとをしている時に、「さぁ寝ましょう」と子ども役であるカウンセラーにそっとタオルケットを掛けるといった優しさも表現するようになります。このような体験の中での学びは子どもの心の中に取り込まれて、将来親になった時の心理的なバランスにも作用すると考えられています。
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先生情報 / 大学情報
北星学園大学 社会福祉学部 心理学科 教授 牧田 浩一 先生
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