人を孤独にせず優しく見守ること~事故・災害時の心のケア~
認知されるようになった「PTSD」
今でこそ「トラウマ」や「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という言葉は多くの人が知っていますが、事故や災害時のこれらの反応や心のケアの研究は、比較的新しい分野です。
戦争や事故や災害に遭った人がその後抱える精神的な後遺症があることは経験的にわかっていましたが、それが「PTSD」という病気として認知されるようになったのはベトナム戦争がきっかけでした。日本では1995年が「心のケア元年」と言われます。同年の阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件をきっかけにPTSDなどの症例が増え、その概念が一般にも広がったからです。
人それぞれに異なる「癒やし」
突然の事故や災害に遭遇したら、人の心はどうなるのでしょうか? その心のケアとは何をすればよいのでしょうか? 実は、専門的な治療が必要な人はごくわずかで、多くの人は毎日の生活の中でゆっくりと立ち直っていくのです。心のケアというとカウンセリングなどをイメージするかもしれませんが、その人なりの立ち直りを優しく見守っていく姿勢が専門家にも周囲の人にも必要です。回復のきっかけは、日常生活の中にちりばめられています。心を元気にするような回復要因を後押しし、元気を奪うような回復阻害要因を取り除いていくような支援が重要になります。心のケアで注意すべきは、人を孤独にしないこと、そして干渉しすぎず、その人のペースに合わせて、周りの人が環境を整えるために協力していくことが大切です。
欧米流と日本流の違い
欧米と日本では心のケアの方法が大きく異なっているのではないかという考えがあります。心の中にあるものをどんどん話し、カウンセリングにも積極的な欧米では、元凶となっている要因を排除する方法がメインです。しかし日本人はつらい気持ちをあまり人には言わず、心に秘めて自分の中で消化しようとする傾向が強くみられます。心の傷を抱えながらも、折り合いをつけながらそれと共に生きるという共生共存の道を探っていくのが、日本人の国民性には合っているのではないでしょうか。
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札幌学院大学 心理学部 臨床心理学科 教授 菊池 浩光 先生
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