講義No.11657 児童学 教育

「食べることが怖い」という発達障害の子どもをどう支えるか

「食べることが怖い」という発達障害の子どもをどう支えるか

発達障害等の子どもの食の困難

おいしそうに見えるイチゴは表面に密集した種や細かな毛が気持ち悪く感じたり、揚げたての香ばしいトンカツも、サクサクとした衣が口腔内(こうくうない)に刺さるように感じて食べられない人もいます。初めて見る食べ物が苦手、カレーにいつもと違う具が入っていると食べられない、といった人もいます。これは「感覚過敏」や「新奇恐怖」といった発達障害の子どもに多く見られる傾向で、そうした子どもにとって家庭や学校での食事は大きな困難になっています。

食べることの不安や恐怖

「食べる」とは、食物=異物を体内に取り込むことでもあり、本来は不安や緊張をともなう行為です。多くの人は、苦手な食べ物があっても成長段階で認知力が向上し、それが安全かどうかを判断できるようになりますが、発達障害のある子どもにとっては食べ物や食環境等への不安や緊張、恐怖、ストレスが解消されず、極度の偏食に陥るケースも数多くみられます。
原因の多くは「感覚」の調整、咀嚼や嚥下などの困難にありますが、他の人に理解してもらえるように説明することは簡単ではありません。そのため周囲の理解を得られず「わがまま」と言われたり、「食べられない私が悪い」と自分を責めたり、その場をしのぐために丸のみして体調を崩すといった子どももいます。

子どもと伴走する姿勢

「食の困難」の研究は、従来は保護者や学校の教師といった、周囲で支える大人が行う支援策を見つけようと進められてきました。しかし、当事者である子どもと保護者や教師に同じアンケート調査を行ったところ、子どもが求めるものと、大人が考える支援の形に大きな食い違いがあることがわかりました。例えば「苦手な野菜を刻んで入れる」「少しずつ慣れさせる」といった大人側の発想は、ときに押し付けになり、感覚的な困難を抱える子どもが求める支援とは異なります。まずは当事者(子ども)の声に耳を傾け、不安や辛さを理解するように努めながら、当事者と一緒に考え、伴走する姿勢こそが、支援の大前提なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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金沢大学 人間社会学域 学校教育学類 准教授 田部 絢子 先生

金沢大学 人間社会学域 学校教育学類 准教授 田部 絢子 先生

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メッセージ

発達障害をはじめ、さまざまな困難をもつ子どもの教育に携わるということは、「支援する」「教える」といった教師のリードだけでなく、子どもから困りごとや願いを「教わる」「傾聴する」という姿勢が大切です。子どもたちが抱えている想いは言葉にならないことも多いですが、それでも近くに寄り添い、内面を知ろうとする努力が不可欠です。
自分の目や耳、知識や経験を屈指して、さまざまな方法で相手の想いを知ろうとすることが特別支援教育の本質であり、とても幅広く、また奥深い教育分野であるといえます。

先生への質問

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金沢大学に関心を持ったあなたは

金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。