ミトコンドリアを調べて新しい薬をつくる!
多才な機能をもつミトコンドリア
生物の体を構成するすべての真核細胞(核膜で囲まれた核を持つ細胞)には、ミトコンドリアという小器官が存在します。ミトコンドリアは、酸素を利用して生命活動に必要なエネルギー伝達物質ATP(アデノシン三リン酸)を作っており、ミトコンドリアの介在により、真核細胞では通常の10倍以上のATPが生み出されています。このようなATP産生の場としての働きに加え、特に20世紀後半の研究により、ミトコンドリアは様々な病気と密接に関わることが見出されました。また21世紀以降は、遺伝子操作や顕微技術の発展も相まって、ミトコンドリアの多才かつ未知の機能に関する研究が進められています。
薬理学的手法で探る薬のアイデア
薬物投与や遺伝子操作などの薬理学的手法は、高次生命機能の解明と新薬のアイデア提案を同時に行える効率的な研究手法です。例えば運動障害を示す進行性の神経難病であるパーキンソン病は、その原因であるドパミン神経の進行的細胞死を止める治療法がまだみつかっていません。一方、遺伝子操作でミトコンドリアタンパク質のひとつp13を半分程度に減らすと、この細胞死は大幅に軽減しました。さてお気づきでしょうか? そう。この研究で「p13が細胞の生死に関わる新しいタンパク質であること」が見出され、「p13を減らせば細胞死を止められるかも?」という新しい薬のアイデアが提案されたのです。
健康に生きるための鍵を探して
p13の研究では、p13を減少させるとATP産生を担う「Complex I」という制御装置が壊れにくくなる、という発見もなされています。つまりこの研究で、「p13を減らしてComplex Iを正常に保つこと」が、「私たちが健康に生きるための新たな鍵」になる可能性が示されたのです。このように、ミトコンドリアの未知の制御機構が発見され、それを薬の新たな「鍵」として利用できれば、パーキンソン病に限らず、これまで治療が不可能と考えられていた様々な病気・難病の解消につながると期待されます。
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先生情報 / 大学情報
和歌山県立医科大学 薬学部 薬学科 教授 新谷 紀人 先生
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