無機物から有機物を作る植物の能力を高める
無機物から有機物を作り出す植物
植物には、無機物を代謝によって有機物に変える作用があります。これを「同化」といいます。太陽光と水と二酸化炭素から糖を作り出す光合成はその代表ですが、それ以外にもさまざまな無機物が有機物へと変換されます。この過程で生み出される有機物は、植物が成長するために使われるだけでなく、人間や動物の栄養補給、医薬品や農薬の開発にも役立っています。
イオウから作られるアミノ酸
例えば、イオウという元素は、硫酸イオンの形で土壌の水に溶けていて、植物にはそれを選択的に吸収する仕組みがあります。取り込まれた硫酸イオンは還元反応を経て、システインというアミノ酸になります。これは植物内でできる最初の含イオウ有機物です。ここからさらにメチオニンという必須アミノ酸が作られます。これは、人間が自ら作り出すことができない重要な栄養素です。システインからは、グルタチオンやグルコシノレートというアミノ酸も作られます。これらは、薬や栄養補助食品としても利用されます。グルコシノレートには、病害虫を寄せ付けない働きがありますが、人間にとっては発がん抑制物質です。同じように作られるアリシンも虫を寄せ付けない機能がありますが、人間にとっては免疫活性化物質です。
アミノ酸生成を全体として制御しているのは?
植物には、このように外から無機物を取り込む段階と、そこからアミノ酸を生成する段階があります。そこで、いかに取り込むか、どのようにアミノ酸を生成するかを明らかにして、それらを制御する仕組みがわかれば、遺伝子の組み換えなどによって人間に有用な植物に改変することが可能です。最近の研究では、イオウが少ないと硫酸イオンの取り込みやアミノ酸の合成が増し、一方でグルコシノレートなどの有用化合物の合成が減ることがわかってきました。そこで注目されるのは、全体を制御する情報伝達因子です。全体として同化能力を高めるとともに有用化合物量を維持する技術とそのための基礎研究が重要なのです。
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先生情報 / 大学情報
九州大学 農学部 生物資源環境学科 応用生物科学コース 教授 丸山 明子 先生
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