講義No.14655 医療技術

運動前ストレッチングは逆効果? 体の動きを科学で解き明かす

運動前ストレッチングは逆効果? 体の動きを科学で解き明かす

スペシャリストが解き明かす体の仕組み

理学療法学は、病気やけが、加齢などにより体の動きに制約がある人々の社会参加や活動を支援するために、「動作」の側面からアプローチする学問です。人の動きには、脳や神経や循環器など、さまざまな組織や器官が関わっています。その中で、筋肉や骨格、関節など、実際の動きを生み出す組織を対象とする分野を「運動器理学療法学」といい、「運動器」と呼ばれるメカニカルな部分に焦点を当てて、その仕組みを明らかにしていきます。そこで得られた知見を土台に、機能を改善する方法の開発をめざすのです。

マッサージ効果の意外な真実

具体的な研究として、これまで経験則で行われてきた手技の効果を、種々の計測機器を使って科学的に検証する研究が進められています。例えば、組織硬度計という機器を使って筋肉の特性変化を定量的に測定し、その効果を実証的に確認することで、科学的根拠に基づいた理学療法の確立につなげます。
代表的な手技にマッサージがあります。多くの人に経験のある身近な手技ですが、その効果については実は科学的な解明が十分ではありません。近年の研究では、あるマッサージ方法が単に筋肉の「硬さ」を和らげるのではなく、「粘弾性」という特性を変化させている可能性があることなどがわかってきました。このような発見は、より効果的なマッサージ方法の開発につながる可能性を秘めています。また、スポーツの分野では、運動前のストレッチングが必ずしもパフォーマンス向上につながらず、逆に低下させてしまう場合もあると言われており、まだまだ研究の余地があります。

科学の力で見つける最適な理学療法

人体は非常に複雑で、同じ理学療法プログラムでも人によって反応が異なることがあり、まだまだ解明されていない部分が多く残されています。科学的な検証を重ねて、日常的に行われている動作の中にある「なぜ?」を一つずつ解き明かしていくことで、より効果的な理学療法やトレーニング方法の開発が期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京都立大学 健康福祉学部 理学療法学科 准教授 宇佐 英幸 先生

東京都立大学健康福祉学部 理学療法学科 准教授宇佐 英幸 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

理学療法学

メッセージ

理学療法の分野にはまだ多くの未解明の部分が残されています。既に解明されている知識や技術をしっかり身につける一方で、まだ明らかになっていない部分は仮説を立てて検証していくことが必要です。大学での研究はもちろん、理学療法士として働き始めてからも、実践の中で思わぬ結果が出ることがあり、その原因を探ることで新たな発見につながります。日々進歩している分野ですから、卒業してからも勉強は続きます。疑問を持ち、それを問い続けることに興味を持てる人に向いているでしょう。

東京都立大学に関心を持ったあなたは

東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。