抗生物質をつくる微生物の生き様を探る!

命に関わる多剤耐性菌
今、多くの抗生物質が効かなくなる「多剤耐性菌」の感染症が増えています。抗生物質には細菌やウイルスの増殖の抑制や殺菌といった作用があり、広く使われている薬です。多剤耐性菌の威力は強く、薬が効きにくいため死に至りやすくなります。このままでは、多剤耐性菌による世界の死者は増え続け、2050年になると年間で1000万人を超えるほどになると予測されています。この窮地を乗り切るために、新しい抗生物質を発見するといった対策を講じることが急務となっています。
土壌の微生物が抗生物質をつくる
抗生物質は、「放線菌」という微生物によってつくられます。放線菌は土壌など身近な自然界にいて、さまざまな代謝物を生産しています。結核の特効薬や、抗がん剤、免疫抑制剤など多様な薬剤に活用されていますが、放線菌の実態はわかっていないのが現状です。また、放線菌は何千種類とあり、すべてが活用されているわけではありません。新しい放線菌や代謝物を発見できれば、「新しい抗生物質」の開発につながります。
同時に、その抗生物質を正しく活用することも重要です。これまでの研究により、抗生物質の濃度の違いによって、細菌を減らす場合も増やす場合もあることがわかっています。
根本的な生物学的解明で命を救う
これまで、新しい抗生物質が使われると、それに耐性をもつ菌が現れることを繰り返しています。放線菌も、生み出した抗生物質から自らを守るために耐性を生み出します。「耐性」ができるメカニズムが解明すれば、新しい対策方法を構築できます。
そもそも、放線菌はなんのために抗生物質を生産するのか、それは自然界にどんな影響を与えるのかといった生物学的な現象も未解明です。根本的な原理を明らかにすることで、創薬や医学に貢献できるでしょう。放線菌や抗生物質を、分子や細胞レベルで分子生理学的に解明することは、放線菌の潜在能力を引き上げて、耐性化に備えることにつながります。将来、多くの人たちの命を救うことができるのです。
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先生情報 / 大学情報

信州大学農学部 農学生命科学科 生命・食品科学コース 准教授保坂 毅 先生
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