魚の免疫機能の研究がもたらす、人間の病気治療への希望の光
実は似ている? 魚と人間
魚と人間では姿形は違いますが、動物全体を見渡してみると、案外近い関係にあります。動物全体のわずか3%ほどの脊椎動物のグループに、魚も人間も入っているのです。背骨があるだけでなく、顎(あご)を持つという点でも共通しています。また人間のゲノム(全遺伝情報)には、2万から3万の遺伝子が入っていますが、魚もほぼ同じくらいの数の遺伝子を持っています。
2つの免疫システムで体を守る
動物には、病原体など外敵を攻撃し、身を守る「免疫」の仕組みが備わっています。魚も人も、免疫にかかわるよく似た遺伝子を持つことがわかりました。免疫には、生まれつき備わる「自然免疫」と、病原体を学習することで後天的に身につける「獲得免疫」があります。獲得免疫とは、ひとたび病原体を学習・記憶すると、「抗体」を作ることができるようになり、以降は病原体に抗体を結合させて効率的に撃退できるようになるというものです。自然免疫はすべての動物が持っていますが、獲得免疫も併せ持つのは、魚類や両生類、鳥類、哺乳類など脊椎動物の限られたグループだけです。
魚の免疫の驚くべき力
獲得免疫に関する遺伝子に異常があると、抗体を作ることはできません。人間の場合、獲得免疫に大きく依存しているため、その遺伝子がないと感染症にかかりやすくなり、生きていくことは困難です。ところが驚くべきことに、魚は獲得免疫に関する遺伝子を失っても、自然界で生きることができます。魚には自然免疫だけで人間よりもうまく病原体を撃退する仕組みがあるのではないかと考えられています。
近年、同じように見えても、魚と人間の遺伝子では異なる働きを持つことが明らかになってきました。人間は進化の過程で、このような自然免疫の力を失ってしまったのでしょうか? 魚の免疫の仕組みを解明すれば、養殖での感染症を防げるばかりか、人間の病気の治療にも光が差すでしょう。免疫を知る上で、魚から学ぶことは多くあるのです。
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先生情報 / 大学情報
九州大学 農学部 生物資源環境学科 動物生産科学コース 教授 中尾 実樹 先生
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