異なる科学的な知見を統合するアート(芸術工学)で地域をデザイン

矛盾するものを一つに統合
社会の発展と自然保護には、相反する側面があります。例えば、池や湿地を埋め立てれば安価に宅地造成が可能かもしれませんが、地震や洪水に弱くなる恐れもあります。100年以上前、アメリカで「ランドスケープ・デザイン」という、自然の保護と人間の双方に快適なまちづくりをめざす分野(近代造園学)が誕生しました。これにより、ボストン・フェン、ウッドランド、イギリスの田園都市レッチワースといった、魅力的で歴史的な作品が生まれています。
安全と快適を人にも、自然にも
ランドスケープ・デザインには、「デザイン・ウィズ・ネイチャー」という計画論があります。これは、20世紀にアメリカの都市計画家イアン・マクハーグが提唱したものです。
この手法を基盤にした、東北の被災地復興の取り組みがあります。防災の観点では、各自治体が地域内のハザードマップを公表していますが、それらは管理区分ごとの評価にとどまり、地域全体を評価しきれていません。例えば、一級河川の氾濫予測に、自治体が管理する小さな川や農業用水路からの流入が反映されないことがあります。そこで、地域(ランドスケープ)という単位で、土木や排水など各専門家の知見や価値観を統一した表現様式で土地を評価するプロセスを導入し、新たなマップが作成され、それを活用したまちづくりが進められています。
科学+アートの要素を備えた方法論
こうした研究では、専門的な知識をいかに理解しやすい形でデザインし、統合するかというプロセスが求められます。気候変動時代のまちづくりにおいて、自然の持つ機能を活かしながら地域をデザインすることは、今後さらに重要になるでしょう。また現在では、まちづくりに関わる土木学や都市計画など、複数の専門分野の研究者の協力を得られるようになり、注目を集め始めています。このような動きは世界的にも進んでおり、日本でも今後の発展が期待されています。
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