講義No.11461 薬学

新型コロナウイルスワクチンの開発を支えた「DDS」

新型コロナウイルスワクチンの開発を支えた「DDS」

新型コロナウイルスワクチンのすごさ

新型コロナウイルス(COVID-19)のmRNAワクチンは、1年未満という驚異的なスピードで実用化されました。これは、開発を担ったドイツのビオンテック社がドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究者・カリス教授と連携していたことが大きな要因のひとつです。
RNAは体内で分解されやすいので、DDSの技術で保護して患部まで届けなければなりません。ビオンテック社はインフルエンザ向けのmRNAワクチン開発に取り組んでおり、利用可能なDDSを準備していました。ワクチン内の遺伝子配列をCOVID-19向けに変更するだけでよかったため、新たなDDS開発に時間をかける必要がなく、短期間で開発できたのです。

次世代の薬を運ぶDDS

DDSは日本でも研究が進められています。多機能なウイルスに対抗するために開発された粒子を「多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)」といい、薬などを体内の狙った場所に届けることが可能です。当初は、標的細胞に侵入させるために、MENDの表面にペプチドを付けていました。しかし、細胞単体に入れたときはうまくいくものの、人体では異物のように認識され、免疫系細胞に食べられてしまいました。対策としてMENDをポリエチレングリコールで覆う方法が試されましたが、食べられなくなる代わりに遺伝子活性が低下してしまい、ジレンマに直面しました。

DDSのジレンマを解決

こうしたDDSのジレンマを解消したのが、カリス教授の開発したpH応答性カチオン性脂質です。これをMENDに組み込むと、細胞内輸送を担う小胞(エンドソーム)からうまく脱出でき、薬の効果を劇的に向上することができました。
この脂質の構造には多様性があり、最も効果の高い構造について日本でも研究が行われました。その結果、より性能が高く毒性の少ないpH応答性カチオン性脂質が開発され、実用化が進められています。今後、さらなるDDSの発展により、さまざまな病気に対する根本的な治療が実現する日が来るでしょう。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 薬学部 薬学研究院 教授 原島 秀吉 先生

北海道大学 薬学部 薬学研究院 教授 原島 秀吉 先生

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薬学、薬物送達学

先生が目指すSDGs

メッセージ

核酸医薬は新しく始まったばかりの分野で、今後めざましく発展していくと考えられています。患者を助けることはもちろん、特許を取得して富を築くこともできるかもしれません。宝の山のような領域なので、興味を持ってもらえるとうれしいです。
また、サイエンスはスピードの速い分野なので、その時々の最先端を身につけることが大切です。そのため高校生のうちは狭い分野にとらわれず、視野を広く持ちましょう。ひとつの分野を深めていくと、さまざまな分野に繋がってくるので、経済や法律など幅広い分野に関心を持ってほしいです。

先生への質問

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北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。