新型コロナウイルスワクチンの開発を支えた「DDS」
新型コロナウイルスワクチンのすごさ
新型コロナウイルス(COVID-19)のmRNAワクチンは、1年未満という驚異的なスピードで実用化されました。これは、開発を担ったドイツのビオンテック社がドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究者・カリス教授と連携していたことが大きな要因のひとつです。
RNAは体内で分解されやすいので、DDSの技術で保護して患部まで届けなければなりません。ビオンテック社はインフルエンザ向けのmRNAワクチン開発に取り組んでおり、利用可能なDDSを準備していました。ワクチン内の遺伝子配列をCOVID-19向けに変更するだけでよかったため、新たなDDS開発に時間をかける必要がなく、短期間で開発できたのです。
次世代の薬を運ぶDDS
DDSは日本でも研究が進められています。多機能なウイルスに対抗するために開発された粒子を「多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)」といい、薬などを体内の狙った場所に届けることが可能です。当初は、標的細胞に侵入させるために、MENDの表面にペプチドを付けていました。しかし、細胞単体に入れたときはうまくいくものの、人体では異物のように認識され、免疫系細胞に食べられてしまいました。対策としてMENDをポリエチレングリコールで覆う方法が試されましたが、食べられなくなる代わりに遺伝子活性が低下してしまい、ジレンマに直面しました。
DDSのジレンマを解決
こうしたDDSのジレンマを解消したのが、カリス教授の開発したpH応答性カチオン性脂質です。これをMENDに組み込むと、細胞内輸送を担う小胞(エンドソーム)からうまく脱出でき、薬の効果を劇的に向上することができました。
この脂質の構造には多様性があり、最も効果の高い構造について日本でも研究が行われました。その結果、より性能が高く毒性の少ないpH応答性カチオン性脂質が開発され、実用化が進められています。今後、さらなるDDSの発展により、さまざまな病気に対する根本的な治療が実現する日が来るでしょう。
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北海道大学 薬学部 薬学研究院 教授 原島 秀吉 先生
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