細胞内の物流システムとは？　脂質の輸送メカニズムを解明する

細胞内での脂質の運搬

細胞膜や細胞小器官などの生体膜を構成する脂質は主に小胞体で作られますが、その後の輸送についてはまだわからないことが多くあります。そこで、生体膜の材料となるスフィンゴ脂質に着目し、真核生物のモデル生物である出芽酵母を使って、脂質の輸送についての研究が進められています。

2つの輸送方法

生体膜を構成するスフィンゴ脂質の前駆（ぜんく）体であるセラミドは、小胞体で作られたあとゴルジ体に輸送されます。出芽酵母ではゴルジ体でイノシトールリン酸セラミド（IPC）という脂質に変換されます。小胞体からゴルジ体への輸送については、脂質が集まって「輸送小胞」を形成し、その運搬体の中でセラミドが輸送される方法が知られています。ただ、輸送小胞がうまく働かない変異株でもIPCが半分程度作られるため、輸送小胞以外にも輸送方法があると考えられます。
一方、精製した小胞体とゴルジ体を混ぜ合わせるとIPCが合成されます。また、小胞体とゴルジ体の混合液を希釈するとIPCの合成が進まなくなります。このことが基になり、小胞体とゴルジ体の膜が接触してセラミドが輸送される方法もあることが明らかになり、実際に蛍光標識を使って、細胞内に小胞体とゴルジ体が接触している部位が存在することも確認されました。

タンパク質がセラミドを引き抜き受け渡す

さらなる実験により、小胞体の膜に結合しているタンパク質「トリカルビン」が、小胞体とゴルジ体の接触部位を形成して、小胞体内のセラミドを引き抜いてゴルジ体に受け渡す働きをしていることが分かりました。ゴルジ体側にはセラミドをIPCに変える酵素が待ち構えており、スムーズに反応が進む仕組みになっています。このようなタンパク質の機構は動物細胞にもあり、生体膜の接触による輸送は生物種を超えた普遍的なメカニズムであると考えられています。
接触による輸送には、今回発見されたタンパク質以外にも複雑な要因が関係していると考えられており、メカニズムの全容解明をめざして研究が進められています。

参考資料

先生の研究紹介記事（大学HP）

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広島大学生物生産学部生物生産学科分子農学生命科学プログラム教授船戸耕一先生

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細胞生物学、分子生物学

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