「糖」のカタチとツナガリを解き明かす、決して「甘~くない」研究
エネルギーだけではない「糖」の役割
光合成で作られた炭水化物(糖質)は、タンパク質、脂質の原料となり、三大栄養素の一つとして生物界を循環しています。生物に取り込まれた糖質は、単糖に分解され筋肉や脳などのエネルギー源となりますが、それ以外にも重要な働きがあります。細胞の中ではグルコース、フルクトース、ガラクトースなどの単糖が複雑な分岐パターンで繋がった「糖鎖」が、タンパク質や脂質などと結合した形で作られます。この糖脂質や糖タンパク質は細胞を包み込み、その糖鎖パターンが細胞同士の識別や連携をコントロールしているのです。
糖の並び方で血液型が決まる、病気がわかる?
赤血球表面には、A、B、O、ABを分類している糖鎖パターンがあります。私たちの体に備わっている免疫機能が、糖鎖パターンの違いで「自己」と「非自己」を識別できるため、血液型が異なると輸血できないのです。体調で大きく変化する糖鎖パターンもあります。この変化は免疫による癌細胞の攻撃(治癒)や病気の診断にも使われています。糖質と聞いて「ダイエットの敵」というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、糖と生命とは切っても切れない関係なのです。
糖の解明で医療が飛躍的に発展するかも
そんな特定の糖鎖を人工的に作る技術は、現在も確立されていません。設計図が曖昧だからです。生体内のタンパク質は、DNAの情報から直線的に翻訳されますが、糖鎖は多様な分岐点と曖昧な終点をもつ「翻訳後修飾」の過程で結合します。そのため、同じタンパク質でも糖鎖パターンが分散し揺らいでしまうのです。
そこで現在、化学とバイオの両技術を駆使して、ロボットによって正確に糖鎖を解析・作製できるようにする研究が進んでいます。特定の糖鎖パターンを持つサンプル分子を合成し、体内からそれと同じ構造のものを探し出す自動解析技術が生まれました。糖鎖の化学構造を正確に読み取り、特定構造の糖鎖を自在に合成できるようになれば、病気の診断・治療が大幅に進歩する可能性を秘めているのです。
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北海道大学 理学部 先端生命科学研究院 教授 比能 洋 先生
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化学生物学、糖鎖工学、有機化学先生が目指すSDGs
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