少子化問題と社会的性差(ジェンダー)のかかわり
2種類の林業者
仮に、日本の山林が植林をしない業者Aと植林をする業者Bに占有されていたとします。それらが自由競争をすると、どちらが勝つでしょうか。当然Aが勝ちます。Bが植林をしている間にAの業者は木を切れるので、1日に切り倒せる木の数はAの方が多くなるからです。労賃が同じなら木1本にかかる労賃は安くなるので、同じ材質であれば安いAの方が売れます。
では、30年後のことを考えてみましょう。Aが勝ったことでBは淘汰され、日本の山は植林されず、すっかりはげ山になってしまいます。そしてある日、保水力を失った山から大水害が起き、日本は30年間植林をしなかったつけを一気に払わされます。これは環境問題の基本で、なぜ値段が高くても環境に優しい商品を買わなければいけないかがわかるでしょう。
子育てのコストを嫌う企業
一方でこれは少子化問題を抱えた日本社会のたとえです。植林を「子育て」、Aを「男性労働者ばかりを雇う企業」、Bを「女性労働者もたくさん雇う企業」と読み替えてみましょう。目先の利益を追う企業は、男性労働者ばかりを雇います。妊娠や子育てで休むことの多い女性労働者はコストがかかり、いったん退社すると再就職は非常に困難です。これは多くの日本企業の姿です。つまり日本社会が子育てのコストを正当に払っていないことを意味します。
効率よく働いて子育てを
つまり少子化問題は、長時間の残業に疑問を持たず、効率の悪い働き方を当然とする企業や男性の問題なのです。日本は先進国の中で韓国に次いで世界で2位の長時間労働国ですが、労働生産性は先進7カ国中最下位です。つまり、無駄な労働をしている時間がとても長いということになります。そこには「男はガンガン働いて子育ては女に任せる」という概念にとらわれた男性やそれを求める女性が多いという問題が潜んでいます。つまり社会的性差(ジェンダー)の問題が深くかかわっているのです。
ジェンダー論は、社会のゆがみを読み解き、解決の方法を探るための有効な手段なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 教養学部 総合社会科学科 教授 瀬地山 角 先生
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