金融危機の原因をマクロで考えてみる
自分にいいことが、全体にいいことは違う?
マクロ経済学は、経済現象を大局的な視点でとらえます。経済は相互に関係があり、何かが起こるとその影響がほかにも波及して、思わぬ結果をもたらすことがあります。
例えば、先行き不安から多数の人が貯蓄を増やそうとしたとします。それは各家庭にとってはもっともな選択です。しかし、経済全体では消費が減少し、ものが余って景気が悪化します。その結果、家計の収入も減り、当初意図したように貯蓄を増やすこともできなくなってしまいます。これは、貯蓄のパラドックスというよく知られた例です。不況が深刻化する過程では、このようなことが起こります。
マクロの変動のリスクは、回避できなかった
人にお金を貸すときに懸念されるのが、その人が返せなくなるのではないかというリスクです。こうしたリスクを軽減するために、複数のローンを組み合わせるという考え方が生まれました。米国のサブプライムローンではこの手法がとられました。多くのローンを組み合わせることによって、たとえ一部の人が返済できなくなったとしても、全体としての返済額をある程度期待することができます。一見、リスクが分散し、軽減されたように見えるでしょう。こうした手法によって、信用度が低い人でも住宅ローンが利用できるようになりました。今まではローンが組めなかった人でも住宅を購入できるようになったのは、こうした新しい金融手法のおかげで、何も悪いことばかりではありません。
誰かが返済できなくなる理由が、その人の個人的な事情によって生じる限りは、多数の人が同時にそうした困難に遭遇することはなく、リスク分散の話は正しいのです。ですが、サブプライムローンで起こったことは、急騰し続けていた住宅の値段が、反転して急激に下がり始めるという事態でした。この住宅価格の変動はマクロの現象であり、誰もが影響を受けました。実は、こうしたマクロの変動に見舞われる場合には、リスクを分散することはできていなかったのです。
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