森林利用から考える日本経済の歴史
環境・エネルギーの経済史
さまざまな経済事象を歴史的に分析する学問分野を、「経済史学」といいます。近年の環境・エネルギー問題の深刻化を背景に、経済史の分野でも環境や資源・エネルギーに関する歴史がこれまで以上に注目されています。資源・エネルギーと聞いて思い浮かべるのは石油や石炭、鉄鉱石などかもしれませんが、これらが十分に使えなかった時代の日本で特に重要だったのは木材です。日本に木材という資源がなかったら、今のこれだけの発展はなかったといえるでしょう。
木材のおかげで発展した日本経済
日本は古来、木材とともに生きてきました。燃料に加え、城や住宅、船などの資材から日用品に至るまで木材を利用してきました。大きな転機となったのは明治時代です。西欧の諸制度が導入され、鉄道網や電信・電話網の整備にともなって、枕木や電柱の材料として木材が必要になりました。石炭業も発展し、坑道を支えるために木材が使われました。ほかにも紙の原料や鉄道・自動車といった乗り物などに木材が使用され、木材の需要が高まりました。第二次世界大戦が終結する頃には、伐採可能な森林のほとんどが切り尽くされていたと言っていいくらいです。さらに戦後は復興のための伐採が加わり、日本の山林は荒れ果てました。
危機に直面している現在の森林
そこで、1950年頃からスギやヒノキなどの針葉樹を中心に植林が進められました。一方で1960年代からは安価な外国産材の輸入が増加し、また木材からコンクリートや石油などに資材やエネルギーのニーズが変わり、国産材価格が下落した結果、日本林業は苦境に陥りました。今度は山に人の手が入らなくなり、植林後の森林は「緑の砂漠」と化しています。こうした影響で、野生動物の人間社会への出没、土砂災害、花粉症などの問題が引き起こされています。
現在は過去の到達点です。現在の諸問題に目を向け、そこで抱いた独自の問題関心にそって史料を読んでいくと、新しい歴史を描ける可能性があります。それが、今起きている現象を分析する足がかりともなるのです。
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先生情報 / 大学情報
名古屋市立大学 経済学部 マネジメントシステム学科 准教授 山口 明日香 先生
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