モノそのものをセキュリティに生かす技術
レーザー光線を当てて得られる「物体の指紋」
銀行のATMでは、本人認証の技術として、指紋や静脈など、本人の肉体の一部を利用する生体認証が実用化されていますが、実は100%安心というわけではありません。これらはパターン認識なので、同じパターンを偽造することが可能です。
そこで、モノそのものを認証に利用しようという研究があります。モノには固有の「物体の指紋」というべきものがあります。例えば、紙には繊維のパターンがあり、レーザー光線を当てると「スペックルパターン」という不規則な斑点模様として表れます。これは紙一枚一枚に固有のもので、違う紙に当てても同じスペックルパターンが表示されることはありません。つまり、モノとしての複製ができないので強力なセキュリティとなり得るのです。キャッシュカードで言えば、いくらICチップを偽造しても素材であるプラスチックの固有のパターンが異なれば認証されないため不正を行うことはほとんど不可能です。
同じスペックルパターンをいかに判定するかが課題
この技術の問題点は、敏感過ぎるということです。素材に小さなゴミや指紋がついたり、読み取る場所が少し違っただけで、異なるスペックルパターンが表示されてしまいます。再現性が低いので、どれくらいの許容度で同じものと判定するかという情報処理技術が重要になってきます。また、コストがかかり過ぎるという問題点もあります。
この技術はさらに進化すれば、生体にも応用可能です。血流、呼吸、心拍など、生体はモノと違い常に変化しています。スペックルパターンがこの時間的な変化をとらえることができれば、変化の有無によって生体かモノかを区別することができます。この技術を利用し、街中で人が前を通ったときだけ広告を流すという仕掛けを作れば新しい広告ビジネスが生まれるでしょう。レーザー光は、このように思いがけない技術に応用される可能性を秘めています。
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九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 教授 岡本 卓 先生
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